幽子と名付けた幽霊は...

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 その幽霊は半年程前から、突然家に来るようになった。  月に一回。それも夜中の数時間のみ。  対処するには少なすぎる頻度に思えて、とりあえずほっとくという選択をとることにした。  俺は幼少時代から霊がよく見える体質だ。  父方の祖父さんや曾祖父さんも見えると言っていたので、多分遺伝のようなものかもしれない。ちなみに両親と妹は見えないそうだ。 「霊は面倒臭いから兎に角無視が一番じゃ。関わると本当に面倒臭い」  小さい頃祖父さんが教えてくれた教訓の通り、俺は霊を徹底的に無視した。半年に一回は先祖代々お世話になっている神社に行き、お祓いをしてもらい、霊よけ効果抜群の盛り塩とお札も頂いた。  そのお陰で霊はあまり寄ってこなくなったのだが、なぜなのか、あの女の霊はフラフラ~ッと入ってきた。  盛り塩もお札も効かないとは。とてつもない怨恨を抱く霊かもしれないと、久しぶりに悪寒が走ったのを鮮明に覚えている。  ところがだ。  この霊、どういうわけかまるで怖くない。  いつも至福の極みといった様子でニマニマ笑いながら俺を見たり、両眼をクワッと見開いて俺の筋トレを凝視してきたり、時には俺の横に並んでテレビを鑑賞し笑うこともある。  俺がよく見る霊の六割は深い恨みを抱く霊。三割は残してきたものを見守ってる様子の霊。一割はよくわからない霊なのだが、彼女はそのどれにも当てはまらなかった。  強いて言えば、変態霊かもしれない。  変わった霊だなとは思っていたが、それでも俺は徹底的に見えないフリをしていた。  だがそれでも、正直に言うと、筋トレ中を見られるのは嫌ではなかった。  普段筋肉を自慢できる機会は少ないからだ。  しかも彼女は『おおっ』『すごいですっ』『素晴らしいですっ』とまるで応援するような言葉を呟いてくれる。  俺は褒めて伸びるタイプだ。  だからなのか、筋トレ中に彼女がいるとやる気が漲り、もっと見てくれっ!俺の鍛え上げた美しい筋肉をっ!この広背筋(こうはいきん)大胸筋(だいきょうきん)上腕二頭筋(じょうわんにとうきーんっ)!と見せつけるようにトレーニングしてたのは、俺だけの秘密だ。
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