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それからひと月近くが経った。
今日も仕事と筋肉育成に精を出した。努力の汗を風呂で流した後は冷えた缶ビールに限る。
冷蔵庫からきんきんに冷えた缶を取り出すとソファーにどかっと座った。
缶のタブを指にかけると、ふと、あの霊が脳裏に浮かぶ。
そろそろ来る頃じゃなかったか。
なんで月一なんだろうな、と不思議に思いながらも何口か喉に通していると、あの霊がフワ~ッと窓を通り抜けて入ってきた。
タイムリーだな、と吹き出しそうになるのをなんとか耐えつつ徹底して見えないフリに務める。
彼女は今日もニヤニヤしながら俺の近くに寄ってくる。
急に親指を突きあげて見せてきたのも驚いたが、ゆっくりと頭に腕を伸ばしてきた時は流石に恐怖で、リモコンを取るふりをして横へ逃げたが...。
今日も今日で、この霊は何がしたいのか全くわからない。
テレビをつければ隣に座ってくるし、笑いのツボが似てるのか同じタイミングで吹き出す。ただ、害があるようにだけは見えない。
バラエティのスペシャル版は三時間近くもあった。
すぐ隣に幽霊が座っているのに、妙なことに、俺はその時間に寛ぎを覚えていた。
愉しそうに笑う横顔を盗み見れば、なんだか微笑ましいとさえ思ってしまう。
番組を最後まで見たかったのか、霊の滞在時間がいつもより長い。
思わず「今日は長いな...」と独り言を溢すと、霊は俺に振り向いた。
徹底して無視を続けてきた俺だったが、急に気分が変わった。
俺も彼女へ顔を向けると、初めて視線が絡んだ。
長めの黒髪は艶やかで、前髪を真ん中で分けピンで留めているためおでこがよく見える。
透けてはいるが、彼女は肌が綺麗だ。左眉の上にある傷跡の形は正直傑作だと思ったが、それでも彼女には素朴な可愛らしさがあった。
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