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ふと、先月彼女に興味を抱いた瞬間を思い出す。
俺が下半身を晒そうとした瞬間、逃げ出したあの情景を。
脱いだら、彼女はまた逃げ出すのだろうか。
急にからかいたくなってしまってシャツを脱ぐと、彼女は目を丸くした。当然の反応だろうが、上半身は何度も見ているからか、変わらずその場に座っている。
ズボンに手をつけた。
「脱ご」
『脱ぐんですかっ!?』
引き下ろす動作をした途端、彼女は猫のような素早さで逃げ出した。
その動揺ぶりが可笑し過ぎて込み上がる笑いを抑えることができない。
この幽霊、やっぱり面白い。
そう思った俺は、逃げようとする彼女を止め、見えていることを告白した。
かなり驚愕し、戸惑う様子の彼女を再び隣に座らせると、成仏できるかもしれないと身の上話を聞いてやろうとしたが、死んだ時の話はしたくないらしい。
「そうか。まあそうだよな。悪かった。話聞いてやったら成仏できてあの世に送れてやれるかなって思って。でも早急過ぎたな」
『課長はお優しいのですね』
「...課長?なんで俺が課長って知ってんだ?」
『あっ。いえ、その、実は、生きていた時に勤めていた会社の課長に、似ていらっしゃって...』
慌てた様子でそう言った彼女は、その後、その課長に好意を寄せていたことも暴露した。
そうか。
つまり、偶然見つけた俺にその男を重ねているのか。
だとすれば、ニヤニヤしながら俺を見る眼差しにも納得がいく。
その後も話してみると、彼女は満月の夜にしか来れないことと、名前を覚えていないことも知った。
俺は幽子という名前をつけてあげ、そして来月の満月にも来ていいことを伝えた。
理由は単純だった。
ただ、話すのが愉しかった。もう少し話してみたいと思ったからだった。
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