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月日は流れ五月。
今夜は満月だ。
満月を知らせるアプリまでダウンロードしてしまったのは、幽子が来る日を予め知っておきたいだけで、決して待ち遠しにしているわけではないと自分に言い聞かす。
また下半身の露見未遂ハプニングがあってはいけないと早めに筋トレをし、風呂に入ってから幽子を待った。
正直筋トレは見てほしいと思うし、彼女もわかりやすく興奮するから、多分見たいんじゃないかとも思うのだが、なんとなくいつも幽子が来る前に終わらせてしまう。
多分、ゆっくり話したいからだ。
そうこうしているうちに幽子が来た。
『もう筋肉トレーニングもやったのですか?』
俺の横に座った幽子が訊いてきた。
やっぱ見たかったんだなと確信してしまえば、疼いてしまう悪戯心。
「もしかして見たかった?」
『っへ!?いやっ、そんなわけ』
「俺が話しかける前はずっと見てたじゃん。舐め回すように」
途端に赤面して視線を泳がせる反応が面白くて吹き出してしまった。
だが、俯いて肩を竦める彼女に、やり過ぎたかなと反省する。
「ごめん笑って。いや、見てくれて全然いいんだけどな。俺も見られてる方がちゃんとやんなきゃって思うし」
『はい。謙一郎さんがちゃんとトレーニングできてるかチェックしてたんですよ、私は』
急に胸を張って大っぴらに言ってきたが、顔は赤いままだ。
それが可愛く思えて「なに言ってんだ、こら」と言いながら、自然と腕が彼女の耳朶に向かってしまう。
柔らかい感触を期待していたが、指先はその耳朶を虚しく通り抜けた。
「あ、そっか。触れないんだよな」
そうだ。彼女は幽霊だ。
忘れていたわけではないが、その事実が少し、口惜しく思えた。
『今、何を...?』
「耳たぶ。引っ張りたくなって」
『耳たぶを...』
恥ずかしそうに頬を染めた幽子に脈が飛んだ。
彼女を可愛いと思い、耳たぶに触れたくなり、ドキッとさせられるとは。
...どうかしてるぞ俺。彼女は幽霊だぞ?
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