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幽子に嫌われたのではと思うと一睡もできなかった。お陰で翌日は欠伸が止まらなかった。
もう俺のところには来ないんじゃないか
どの発言がまずかったのか。
そのひと月は悩み後悔する時間が多かったと思う。
気持ちも落ち込むことが多く、仕事へのやる気もあまりなかった。
それでも作り上げたのこの美しい筋肉だけは退化させてなるものかと筋トレの習慣だけは意地でも続けたが。
だが、自宅の鏡の前で筋肉ポーズをし自己満足に浸るいつものルーティンはする気になれなかった。
満月の夜。
俺はソファーに座ってじっと幽子を待っていた。
待っていたと言ってもほとんど諦めの心境だ。
もう筋トレはやったが俺考案の地獄の鬼トレでもして今夜のことは忘れようと思い始めた頃、幽子が目の前に飛び出してきた。
虚をついた登場に面食らったが、すぐに来てくれた喜びと安堵が心に広がる。
「待ってたぞ」
さっきまでの陰鬱な気持ちが嘘のようだ。幽子がいるだけで、安心して心が弾む。
幽子に先月の涙の理由を訊いたが、教えてはくれなかった。
『...ちょっと急に、自分の行いを思い出してしまって。私は御天道様の下を歩けないような生き方をして...っていう...そんな感じで』
そう濁されてしまったが、生前は何かと辛い人生だったのかもしれない。死んだ理由もまだ教えてくれないが、こんなに若いうちに命を落としたのだから未練もきっと多いのだろう。
成仏させてあげたいとは思っていたが、それが幽子との別れを意味するんだと気づいた俺は、成仏しないでほしいと身勝手な願いをしてしまった。
成仏しないでそばに居て欲しい。
それが例え、満月の夜だけでも。
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