971人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
幽子はどう思っているのだろう。
ふと、彼女の気持ちを知りたいと思った。
「幽子はなんで満月の夜、俺のところに来るんだ?俺が好きだった課長に似ているからか?ただそれだけか?」
わかりきったことを訊いてしまったと思う。
それでも、どこかで期待していた。幽子も俺を特別に思っているんじゃないかと。
『いえっ。前は似てる気がしたんですけど、今はそういうわけでもなくて...なんというか...』
「じゃあ、会いたくて来てくれてるのか?」
面白いくらいわかりやすく彼女の頬が染まった。
その反応は俺が期待している答えそのもののように思ってしまったら、笑いを抑えることなどできなかった。
その後幽子の額にある非常口マーク型の傷跡や前髪について話していた。
「幽子はおでこ全開が似合ってる」
率直にそう言うと流れるままに頭を撫でた。
手応えなどないとわかっているのに行動に移したのは、それでも彼女に触れたかったからだ。
いつの間に、こんなに好きになってしまったんだろう。
彼女は、幽霊なのに。
「俺はどうかしてんのかな」
どうかしているに決まっている。普通に考えて幽霊を好きになるなんておかしい。
仮に俺の友達が幽霊に恋したと相談してきたら、俺は間違いなく精神科かあるいは何かしらのカウンセラーに連れていく。
頭がイカれてしまったのかもしれない。
だけど、どうしようもなく。
「君を...」
ーーー好きになってしまった。
伝えたかった言葉は、飲み込んだ。
伝えたところでどうしようもない。交際を申し込むとか、デートに誘うとかは、俺と幽子の関係じゃ成立しないんじゃないのか。
最初のコメントを投稿しよう!