幽子と名付けた幽霊は...

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 午後一の会議を早めるという連絡がきたため、時間を変更できないか訊くために山瀬を探しに食堂へ行った。  だが、そこで座っていた山瀬は俺が登場した途端きつねうどんが盛られた熱そうな丼で顔を隠してくる。  なんというか、拒絶を感じた。  俺を信頼して相談をしてくれたのかと思ったが、もしかすると勘違いかもしれない。  山瀬は掴めない人だ。  とりあえず彼女は時間を早めることを了承してくれた。  そのまま第二会議室まで行ったのだが、山瀬は持ってくると言っていたきつねうどんを持っていなかった。  まさか歩きながら完食したのか?  すげーな...と思ったが、どうやら斎藤にあげたとか。  ホントに仲がいいんだな。  食堂に行く度に山瀬と斎藤が並んで食べているのは見かけるのだが、今日見た斎藤は雰囲気が変わっていた。  というか、激変。  一瞬誰だかわからなかった。  山瀬が言うには心境の変化がありイメチェンしたらしい。  心境の変化ってなんだろうな。考えながら、相変わらず顔の造形が全くわからない山瀬を見つめる。  もしかすると、付き合いだした、とか。  いつも一緒にいるから多分付き合ってるんだろうな、とは思っていたが。  もしかすると、今までは恋人未満友達以上、それで最近恋人になった、とか?  そこまで考えると、妙に納得できた。食堂にいた時も自然と山瀬のマスクを直してやってたし。  そうか。山瀬は斎藤と付き合ってんのか。 「ふーん」  なるほどな。  それにしても山瀬から受けた相談事も意外なものだった。  企画課にいる地縛霊を成仏させたいから協力してほしい、というもの。  あの地縛霊はいつ見ても恨めしく泣いているのだが、不思議なことに山瀬にだけは笑う。  どこの誰がやってるのか、よく酒を置かれることがあったのだが、まさかその犯人は山瀬なのではと疑うこともあった。  実際に訊いてみたところ霊感はないと言うし、山瀬にお酒を置く程の度胸があるようには思えなくて疑いは晴れたのだが。  それでも、なぜあの地縛霊は山瀬を気に入っているのか謎だった。  そして今回の相談である。  確かにあの地縛霊を不憫に思ったことは何度かある。だが、見えないはずの山瀬がなぜあの霊に同情し、成仏させたいと思ったのだろうか。  本人はネットで知り得た情報から同情したと言うが、俺は納得したふりをしつつも、内心は山瀬と地縛霊には何かあるのかもしれないと思っていた。  とりあえず、俺もあの霊を成仏させるのは賛成だったから、山瀬と協力することにした。  慣れたとはいえ、ずっと泣いている女性を見るのは俺も辛いからな。
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