幽子と名付けた幽霊は...

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 結果的に、地縛霊は成仏しなかった。  考えた成仏作戦は驚くほどうまくいったし、地縛霊の長年の恨みも消えたようだが、成仏まではいかなかった。  だが、心穏やかに笑う地縛霊を見て、妙な達成感は味わえた。  山瀬なんてもらい泣きしてたな。 「いろいろとお世話になりました。お手間をとらせてしまってすみません」 「いいって。会社で仕事以外のことしてなんか楽しかったわ。それに山瀬って意外に話しやすくて面白いってわかったし」 「おっ、面白くなどないですよ!」 「面白いって。なんか、......いやなんでもないわ」  本当は、幽子に似ている、と言おうとしていた。  寸で止めたのは、山瀬にとったら幽子て誰やねんという話だし、幽霊と似ていると言われても複雑に思うだろうからだ。  それにしても、山瀬と話すと幽子をよく思い出した。  声や話し方が似すぎているのもそうなのだが、醸し出す雰囲気や安心感を覚えてしまう所まで幽子に激似だからだ。  そのせいなのか、山瀬と話したり、成仏作戦を練り上げる時間は妙に心地よく、もう少し話していたいなどと思ってしまうことも度々あった。  山瀬に幽子を重ねてしまっているんだ、きっと。  似ているから。  …顔も似てたりするんだろうか。 「ところで山瀬、いつまでマスクしてるんだ?もう花粉の時期じゃないだろ」 「じ、実はその、私イネ科雑草の花粉にも過敏でしてっ」  慌てたような口振りを怪訝に思ってしまった。  本人が花粉症っていうなら花粉症なのだろうが、メロンパンや丼を使ってまで隠す素振りがあったせいか、何かあるのではと怪しみたくはなる。  もう少し突っ込んで質問してみたくなったが、斎藤が来たので断念した。昼休憩に来ない山瀬を心配したのかもしれない。  お前の彼女とは何もないぞ、と伝えるような気持ちで、山瀬から離れたが、内心妙な悔しさを覚えていた。  それから、目で山瀬を追うことが増えた。  マスクを取ったらどんな顔をしているのか。ここ最近、彼女の素顔が気になってしょうがない。  けれど、理由はそれだけではなかった。  もう少し、話してみたい。  そんな欲があった。  給湯スペースに向かった山瀬に気づいた俺は、彼女を追った。 「今日は何を飲むんだ」 「えーっと。今考えてて。課長は何か飲まれますか?」 「山瀬と同じのにしようかなって思ってたからさ」  目を見張った山瀬に、なにやってんだ俺は、と情けなくなる。  これじゃセクハラみたいだし、何より彼女は斎藤と付き合ってるんだ。  それに彼女に興味を抱くのは、...幽子に悪い。  幽子に似すぎているから変に意識してしまうんだろう。  もう山瀬には、近づかない方がいい。  興味を持ってはいけない。  そう心に決めて、彼女から離れた。
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