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俺が寝泊まりするのは菊の間だ。
別名、課長の間。
文字通り、全課の課長がここに集まっている。社員旅行の部屋割りはいつもそうだ。
その菊の間に戻ると半数以上がもう寝ていたが、総務課長らはまだ囲碁等をしていた。
声をかけようとしたところで幽子が呟いた。
『他の課長達と同じ部屋なんですね』
待て。
なぜ幽子が他の課長を知っている...?
俺が驚くのを不思議そうに見る彼女へ問いかけようとしたが、総務課長に話しかけられたので意識は移った。
もしかすると前に話したことがあったのかもしれない。記憶はないがそうかもしれない。そう思い込むことにして、彼女と二人きりになるために筋トレを理由に広縁を使わせてもらった。
実際に幽子と二人きりになり、彼女を囲うようにして座ると高揚としてしまい、他の課長を知っている件もどうでもよくなってしまった。
幽子と一緒にいられるなら、後はなんだっていいんじゃないか。
本気でそんなことを思うのだから、俺は相当頭がイカれているんだろう。脳まで筋肉化したかもしれない。
早速ダンベルを持ち上げるが、幽子の反応がかわいいからついつい出さなくてもいいのに声をだしてしまう。それもちょっと艶めかしさを意識したやつを。
月明かりに照らされるといつもより透けて見えるが、顔が赤いのだけはしっかりわかる。その顔が堪らなく可愛いくて、もっともっととからかいたくなる。
だが、見つめた顔と目が合うと、どうしても山瀬を思い出してしまった。
今日の幽子は山瀬とよく似た重めの前髪があったからだ。衝動的に切ったらしいが、それにしたって似すぎている。
ふと、同一人物、という言葉が浮かんだ。
似ているのではなく、同じなのでは。
「まさかな」
同じなわけがない。
今目の前にいる幽子は幽霊だ。
そして山瀬は生きた人間。
同じなわけがない。
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