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結局一睡もできなかったのに、山瀬が起きたのは夕方だった。
いくらなんでも寝すぎじゃないのかと思うが、もし山瀬が幽子で間違いないなら、昨晩は明け方近くまで俺と居て起きていたのだから納得がいく。
やっぱり、幽子は山瀬なのか。
考えれば考えるほどその説が濃厚になるが、本人に確かめない限りは断言はできない。
総務課の女性社員に山瀬が起きたことを聞いた俺は、梅の間の前で彼女が出てくるのを待った。
暫くして引戸を開けた山瀬は俺を見てひどく動揺したように見えた。トートバッグまで落としている。
「おはよう」
「...えっ!?なんでいるんですかっ」
「さっき訊いたら起きたって言うから」
「...そ、そうですか」
「部屋、他に誰かいるか?」
「へっ。あ、えっと、誰もいません」
「そうか。ちょっと中で話したい」
女子部屋に入れば罰金だって話だが、今はそれを気にする余裕はなかった。山瀬と二人きりで話したかった。
彼女の横を通り抜け部屋に上がろうとすると、腕を掴まれた。
「だ、駄目ですよっ。女子部屋に入ったら罰金って社長が言ってたじゃないですかっ」
昨晩の幽子と同じ言葉、同じ口調、同じ声。
鳥肌が走った。
確信した。
山瀬は幽子だ。
似ているんじゃなくて、同じだったんだ。
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