971人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
「それ、課長が選んだんだよ」
こそっと教えてくれたのは間宮さんでした。
驚きましたが、課長へ顔を向けることはできず、花束を見つめたまま黙ってお辞儀をしました。
「よし、じゃあ仕事するぞ。みんな戻った」
「はぁーい」
ぞろぞろとみなさんが自分のデスクに戻っていく音を聞きながら、私は椅子に腰を降ろしました。
視線は花束から離れません。
課長はどういう気持ちでこの花を選んだのでしょう...。
ふと花言葉が気になりました。
パソコンを立ち上げて調べてみると、アネモネの花言葉は色によって意味が変わってくるようです。
ーーー白は真実。
ーーー青と紫は、貴方を信じて待つ。
暫く息を忘れていたのかもしれません。
苦しくて、視界が滲みます。
課長は、こんな私をまだ、信じてくださっているのでしょうか...?
こんなヤベェ山瀬すみれを。
大嘘つきの私を。
花束をそっとデスクの端に置くと、入力する資料で顔を覆い、溢れそうになった涙を拭いました。
たくさん騙して弄んだのに謝罪をしないどころか逃げ出した自分が情けないです。
今更、なんと言えばいいのでしょうか。どう謝ればいいのでしょうか。
怖いです。
自分の罪に向き合うのも、課長に全てを話すことも。そしてその後の課長の反応も。
すごく怖いです。
このまま、逃げ切っては、だめでしょうか...。
そんなどこまでも情けないことを考えたところで、アネモネの花の間から白い紙の角が出ていることに気づきました。
徐にそれに腕を伸ばし、厚みのある紙を引き抜きます。
手のひらよりも小さいその紙には、手書きが。
ーーー満月の夜、待ってる。ーーー
最初のコメントを投稿しよう!