971人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
ーーーー
えっちゃんに勇気をもらったはずなのに、実際に課長の家の窓の前につくとまた弱気になってしまいました。
ちゃんとどういう流れで白状し、その後どうやって謝罪するか、紙に書き留めて決めたのに、ここに来てその内容もド忘れしてしまいました。
どうしましょう...。お母さん、どうしましょう...。
小さい頃からの癖で何かあるとお母さんに助けを求めてしまいますが、お母さんは知的に見えて実際は何も考えていない人ですから役に立ったアドバイスもあまり聞いたことはないです。
どちらかいうとお父さんの方が良い助言をしてくれます。
例えば、怖じ気づいたら兎に角吠えろ、とか。
実践したことはありませんが。
そういえば、お父さんはよく仕事に行きたくない朝に自分を奮い立たせるために、「アンザザバラ、ハヒハヒッ!アンザザバラ、ハヒハヒッ!」と謎の言語を叫びながらゴリラのように胸を叩いていました。
幼い時はそんなお父さんが怖くて泣いていましたが、今なら役に立つように思いました。
「アンザザバラ、ハヒハヒッ!」
叫びながら胸をパーで叩きます。パンパンッと鈍い音が響きます。
「アンザザバラ、ハヒハヒッ!」
パンパンッ。
「アンザザバラ、ハヒハヒッ!」
パンパンッ!
気分が乗ってきました。気合いがどんどんと漲ってきました。
お父さんっ!すごいです!アンザザバラハヒハヒッ!物凄いパワーです!これなら課長の前に行けます!
さあっ、と部屋に入ろうと窓へ体を向けると、そこには無表情の課長がいました。
刮目したまま体を動かすことができません。
いつから私のアンザザバラハヒハヒを見ていたのでしょうか。味わったことのない羞恥心と、謝罪前に半分ふざけていた申し訳なさで吐きそうです。
課長は窓を開けました。
「...何やってんだよ」
返す言葉もありません。
...本当に私、何をやっていたのでしょうか...。
まるで何かに取り憑かれていたみたいです。
最初のコメントを投稿しよう!