アネモネの花束と満月

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 元々幽体離脱できる体質であること。  課長に恋して、どうせ見られないからと部屋に侵入し始めたこと。  幽子だと偽ったこと。  えっちゃんとも親しい間柄であること。  ほんの数分だったと思いますが、数時間も懺悔してたような、そんな気分です。  課長は最初の、私が幽体離脱できる体質であることに驚いていましたが、その後はなんの反応もなく、黙って最後まで聞いてくださいました。  私が黙ると、「それで全部か」と課長が訊きます。 『全部...です』 「一つ、いいか?」 『はいっ。なんでもどうぞ』 「斎藤とは付き合ってないのか?」 『付き合ってるわけないじゃないですか。私は課長が好きなのにっ』  思わず顔を上げてしまいましたが、表情のない課長と視線が絡んでしまうと怖じ気づき、また床に顔をくっつけます。  怖いです。メラメラと怒りを宿しているような顔です。  こんな大嘘つきな私に好きだと伝えられたって、課長からすれば気持ちの悪い話ですよね。  幽霊だと思ってた幽子を好きだったとしても、その正体が私なら、恋だって冷めるに決まっています...。 『本当に...申し訳ありませんでした』  今一度改めて謝罪すると、課長はややあってから「山瀬」と私を呼びました。  これは顔を上げるべきだと察知します。  目が合いましたが、課長の顔は怖いままでした。 「その謝罪に誠意が見えない」 『す、すみませんっ』  土下座具合が足りなかったのでしょうかっ。床に顔を埋める勢いで頭を垂れると「そうじゃない」と叱られました。 「本気で謝罪するつもりだったら、普通幽霊の状態で来ないだろ」 『...えっ。で、でも、満月に待ってるって仰ったから...』 「俺は幽霊じゃなくて、生きた山瀬から直接聞きたい。俺も言ってやりたいことがある」  ...め、めちゃくちゃ怒ってますねこれは。  いえ、当然の反応です。ですが、怖くて震えそうです。  本体の山瀬すみれが目の前にいたら、課長は何を言うつもりで、何をするつもりなのでしょうか。  一瞬、サンドバッグのように殴られる想像をしてしまいましたが、課長は暴力をふるう人ではありません。  そんなことはしないと思いますが、やはり怖いです。
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