アネモネの花束と満月

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 でも。  ゴキュリ、と唾を飲み込みます。  覚悟を決めてここに来たはずです。もう逃げてはいけません。課長とちゃんと向き合うのです。 『...では、本体の所まで、行きますか?』 「本体...?」 『はい。本体は私の家にいますので』  課長は気難しそうな顔をして暫く考えていたようでしたが、そのうち顔をあげました。 「そうしよう。案内頼めるか?」 『勿論です』  そうして課長は部屋着のまま、車のキー等をポケットに入れ、玄関を出ました。私もその後ろをついていきます。  移動手段は課長の車です。  案内を頼まれた私は助手席に座ります。  道案内以外の会話はありませんでした。課長はずっと深刻そうな表情でしたし、私も萎縮していたので、車内には重い空気が流れていました。  どんなに辛辣な言葉を聞かされても、絶対に逃げ出さないでしっかり受け止めましょう。  そんな決意を何度もしていましたが、決意する度に怖くなって泣き出したかったです。
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