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「ちなみにどこだ、部屋は」
『こちらです...』
すーっと進むと、課長が着いてきます。
建物の反対側まで行き、二階の半開きの窓を指差すと、課長の眉頭が中心に寄りました。
「これ、入れるだろ」
『へっ』
「そこに乗ってそこに足引っ掛けてあれ掴んだら、余裕で登れるだろ」
柵やパイプを指しながらどうやって登るか説明されますが、私には厳しいように感じました。
『そんな簡単でしょうか...。よっぽど腕力がある方じゃないと無理ですよ』
「おい幽子」
『はいっ』
慌てて振り向いた課長の顔は、まるで勝利者のそれで、胸の前で組んだ両手を前後左右に傾けると、ボキバキボキッと骨が擦れる音が響きます。
「俺を誰だと思ってるんだ」
そしてまるで見せつけるような動きで、課長はヒョイヒョイッと二階の窓まで登ってしまったのです。
誰かに見られないかとハラハラして周りを確認しましたが、恐らくは大丈夫でしょう。
安堵して二階へ視線をあげると、すげぇだろ、とでも言いたげな勝ち誇った顔で私を見下ろしています。
かっこよすぎて拍手すると、更に喜ぶ様子なので、嬉しくて手を叩く速度も速まりますが「わかった、もういい。幽子も来てくれ」と言われ、二階の窓まで飛びました。
窓枠に座っている課長の横につくと「な?入れるだろ。これからは夏場でもちゃんと窓閉めた方がいいぞ」と注意してくださいました。
優しすぎます課長っ!
もう許されたような錯覚をしてしまい、頬が緩んでしまいましたが、次に見た課長の表情から笑みが消えていたので現実に戻りました。
そうです。私は本体に戻ってお叱りを受けなければならないのです...。
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