971人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
『本体は...こちらです。あ、靴は脱いでください...』
律儀に靴を脱ぎ窓枠に置いた課長は、室内に両足をつけ、『そこです』と指した私の指先を目で追いました。
そこにはシングルベッドに仰向けで眠る本体の私がいます。
すると課長は青ざめたような表情で私へ振り向きました。
「山瀬お前...。死んだんじゃないよな...?」
『えっ』
「これっ!罪滅ぼしの為に死んだってオチだったら、冗談じゃないぞっ!」
課長の目に涙が滲んでいるように見えるのは、幻覚か何かでしょうか。
呆然としてしまいましたが、すぐに誤解を解きます。
『いえ、あの、生きてますよ。眠ってるだけです』
「...眠ってる?...この格好で?」
『今夜はその...、たまたま』
切腹前の武士のような覚悟を持ちたくて選んだのですが、自分でも死体に見えてしまったので「紛らわしいな...」と呆れたような口調で呟いた課長に同感し、そして申し訳なくなりました。
「まあ、死んでないならいいんだ...。それで、どう起こせばいいんだ?」
『そうですね...。多分、体を揺するとか、冷水をかけたり、鼻を摘まんだりすればいいと思います』
「そうか」
課長は少し緊張したような面持ちで本体の横に行き、床に膝をつけました。
そのまま本体の私の顔を覗き込む姿に、急に心拍が上がってきます。
不思議な気分です。
課長が私を見つめているのを、私が傍観しているなんて。
しかも、顔が近いんじゃないですか課長!?
「山瀬。起きろ」
トントン、と肩を叩きますが、本体は熟睡しているようで何の反応も返ってきません。
最初のコメントを投稿しよう!