971人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ
でも...、だって...。
『私は、課長になら...何されてもいいですから...』
驚いたように私を見ていた課長は、やがて本体の私に視線を落としました。
…流石にドン引きしたでしょうか。
大嘘つきが何を気持ち悪いことを...等と思っているのでしょうか。
叱られるべき時に、なんて空気の読めないことを言ってしまったのでしょうか。
私は本当に、なんて情けないんでしょう...。
肩を落として床を見つめていると、急に息苦しさを覚えました。口と鼻の穴は塞がれていないのに、息ができません。
苦しいですっ。
課長に助けを求めようと腕を伸ばしたところで、気づいたのです。
課長が...本体の私の口を塞いでいます。それも課長の唇で、です。
そして、何故か私の鼻を摘まんでいます。
確かに先程鼻を摘まむのも一つの方法として上げましたが、口まで塞ぐなんて。
なんというか、ロマンチックに欠けています。これではまるで人工呼吸です。
しかし気づきました。息苦しいのは、本体が息をしていないからです。いえ、できないからです。
課長は私を殺すつもりなのでしょうか。死んで償えってことなのでしょうか。永遠に幽子になれってことでしょうか。
でも課長自らの手で、唇で、死ねるなら、むしろ幸せなのでは。
そう思いつつも、やはり苦しいです。
このまま続いたら本当に死にかねません。
その時、本能が目覚めたような気がしました。
いつもは何度試しても自分で本体に戻ることができなかったのに、その時はやり方がはっきりわかったように、スッと本体に戻ることができたのです。
それは心臓に音もなく静かにダイブするような、例えるならそんな感じでした。
両方の瞼が勢いよく開きます。
再び呼吸ができない苦しさに一気に襲われ、無意識に目前の物体を押し上げました。
最初のコメントを投稿しよう!