アネモネの花束と満月

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 でも...、だって...。 『私は、課長になら...何されてもいいですから...』  驚いたように私を見ていた課長は、やがて本体の私に視線を落としました。  …流石にドン引きしたでしょうか。  大嘘つきが何を気持ち悪いことを...等と思っているのでしょうか。  叱られるべき時に、なんて空気の読めないことを言ってしまったのでしょうか。  私は本当に、なんて情けないんでしょう...。  肩を落として床を見つめていると、急に息苦しさを覚えました。口と鼻の穴は塞がれていないのに、息ができません。  苦しいですっ。  課長に助けを求めようと腕を伸ばしたところで、気づいたのです。  課長が...本体の私の口を塞いでいます。それも課長の唇で、です。  そして、何故か私の鼻を摘まんでいます。  確かに先程鼻を摘まむのも一つの方法として上げましたが、口まで塞ぐなんて。  なんというか、ロマンチックに欠けています。これではまるで人工呼吸です。  しかし気づきました。息苦しいのは、本体が息をしていないからです。いえ、できないからです。  課長は私を殺すつもりなのでしょうか。死んで償えってことなのでしょうか。永遠に幽子になれってことでしょうか。  でも課長自らの手で、唇で、死ねるなら、むしろ幸せなのでは。  そう思いつつも、やはり苦しいです。  このまま続いたら本当に死にかねません。  その時、本能が目覚めたような気がしました。  いつもは何度試しても自分で本体に戻ることができなかったのに、その時はやり方がはっきりわかったように、スッと本体に戻ることができたのです。  それは心臓に音もなく静かにダイブするような、例えるならそんな感じでした。  両方の瞼が勢いよく開きます。  再び呼吸ができない苦しさに一気に襲われ、無意識に目前の物体を押し上げました。
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