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やっと得られた酸素を細胞の隅々まで早く送り込むように荒い呼吸をしていれば、何かが背中の下を通り、掬い上げられました。
温かさに身体を包み込まれます。
十分な酸素を吸い込みやっと混乱してた頭が落ち着くと、自分を抱きしめているのは課長だと気づきました。
「ごめん。強引だった...」
「課長...」
「苦しませてごめんな」
「...いえ。お陰で戻り方がわかったように思います」
「すぐ止めるつもりだったんだけど...、理性が...」
「あ、あの、課長...?」
「幽子が死んでいなくて良かった。山瀬で、...良かった」
片手を私の頭に移動させ頬をすり寄せた課長に、幸福感に浸りそうになりますが、同時に戸惑いと困惑も覚えます。課長の抱きしめ方はまるで愛おしい者を抱擁するそれです。
「あの...。怒っていないんですか?私のこと」
すると課長は私から少し離れました。眼鏡もかけていませんし暗いので表情はよくわかりませんが、怖いようには感じませんでした。
「別に怒ってはいないよ。感心はしないがな」
「...ですよね」
「幽霊を好きになったとか、本気で頭がヤバイんじゃないかって不安だったよ」
「すみません...」
「ってことでこれは許せよ」
えっ、と声を出す前に、課長に唇を塞がれました。
驚いて目を見開いてしまいます。
は、初めてです。初めて、課長の唇を味わっています。や、柔らかいです!甘いですっ!溶かされそうです!
しかも、舌まで入ってきました。な、なんですかこの自然な入場の仕方は!まるで同居人のような入り方です。おかえりー、って言ってしまいそうな舌の入り方でした。
もう、今なら死んでも後悔ありません。
けど、本当に幽子になってしまったら、課長とまた、こうやってキスできないってことですよね。あ、じゃあ死にたくないです。
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