えっちゃん

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 それは謙一郎さんと想いを通じ合わせた満月の翌月の満月の夜でした。  幽体離脱した私とベテラン警備員の目を盗み社内突破した課長は、深夜にえっちゃんに会いに行ったのです。  私に気づいたえっちゃんは喜びましたが、課長の存在に気づくと目を丸めて驚いていました。 『えっちゃん。あのですね、私達、お付き合いすることになったんですよ』  言葉を失ったえっちゃんにもじもじしながら経緯を話して聞かせると、えっちゃんは途中から大号泣してしました。  私もその涙に涙腺を刺激され泣き出し、嗚咽に邪魔されついには話せなくなってしまいました。  見かねた謙一郎さんが続きを話してくれたのですが、何故か謙一郎さんも泣き出してしまったので大変なカオスな状態でした。 『すみれちゃんっ、良かったね。良かったねぇ~っ!』 『ありがとう、ご、ございますっ、えっちゃんっ』  抱きしめ合っていると、急に手からえっちゃんの身体の感覚がなくなり始めたのです。  怪訝に思ってえっちゃんから離れると、なんとその身体が柔らかく光っていました。 『えっちゃん?...どうしたんですかっ?』 『すみれちゃん。あたしね、やっと心残りがなくなったの。すみれちゃんの幸せそうな姿見たらすごく体が軽く感じたの』 『えっちゃん...?』  えっちゃんの身体から発光する柔らかい光は強さを増し、それに比例して身体もどんどんと透けていきます。 『すみれちゃん。あたし、行くね』 『えっちゃんっ』 『今までありがとう。友達になってくれてありがとう』 『えっちゃん、いっ』  行かないで。  そう言いそうになった自分の口を、ぎゅっと結びました。  えっちゃんは自由になるべきなのです。  どこに行くのか、それは私にはわからないことですが、それでもえっちゃんは自由になるために行くのだと、そう思うのです。 『えっちゃんっ!ありがとうございましたっ。また。また、会いましょうね!』  最後に女神のような美しい笑顔を浮かべ、えっちゃんは消えてしまいました。  私はその後、暫く泣き止むことができませんでしたが、謙一郎さんは早く帰ろうと催促することもなく、黙ってそばにいてくれました。  えっちゃんを思い出しながら窓から晴天を見上げます。 「来世があって、同じ時を生きることができたら、私はまたえっちゃんと友達になりたいです」 「そうだな」  謙一郎さんは周りにバレないように、手を繋いでくれました。
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