最終話

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 それにしても、お母さん!なんてことをしてるんですか!  いくら長いこと独り身だった娘にようやくできた恋人がどんな人か気になるからって、普通覗き見しに来るでしょうか!  と憤慨したところで、私も全く同じことをやらかしていたことに気づきました。  お母さんを批判する権利はまるでありませんし、あの母にしてこの娘あり、です。  情けなさ過ぎてどんな表情をしていいかわかりません。 「すみれの彼氏は綺麗好きなんですねぇって呟いてたからさ、あ、これはすみれのお母さんで間違いないなって思って話しかけたら悲鳴あげちゃって。ぎゃああああっ、って言って飛んでっちゃったから。悪いことしたなって」  悪いことなんて何一つしてませんよ、謙一郎さん。  悪いのはお母さんです。  見られてないと余裕こいていたから、話しかけられて肝を潰したに違いありません。  私も全く同じ経験をしてますので気持ちが痛い程わかります。 「後で謝っておいてくれるか」 『お母さんが謝りに来るべきです』 「いや、むしろ俺が行くべきだろ」 『なんでですか』 「だってほら、ちゃんと挨拶したいし。娘さんとは真剣にお付き合いしてますって」 『真剣に...?』  結婚、という言葉を浮かばせてしまった私は期待し過ぎですよね...。 「すみれ」 『はい』 「俺は結婚を前提に付き合ってるつもりなんだけど、すみれはどう思う?」  言葉を失ってしまいました。  両眼を見開いて、口はパクパクと開閉運動を繰り返します。  今のは。  だって今のは。
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