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来見(くるみ)
天気予報は概ね晴れだった。
私の住む地域の降水確率は十%で、それならまぁ晴れるだろうと考えるのは至極当然の思考だ。
だけど、世の中には時々、予想を裏切ることが起きる。
その一例が、今、目の前で盛大に降っている雨だ。激しく降りしきる雨は、簡単に校舎から出ようとしていた生徒達の足を止める。天気予報は滅多に外れない。だけど、時々は外れる。予想外のことが起きる。特に、夏の夕方なんかは。
ちょうど下校に重なった時間に降ってしまっている雨に、殆どの生徒が外へ出るのを諦め、校舎の中に引っ込んでいく。もうすぐ夏休みを迎えるこの時期に降る雨は激しいけど、きっと長くは降らない。だったら、止むまで待とうというのも、当然思い至る思考だ。
「来見(くるみ)はどうする?止むまで待ってる?」
横でそう問い掛けてくるのは、一緒に帰ろうとしている友人、未以子(みいこ)だ。私より少し低い位置にある頭のせいか、此方をじっと上目遣いで見つめてきている。
「私はこのまま帰るわ。傘あるし。」
そう言いながら、鞄の中から折り畳みの傘を取り出す。黒っぽい青色をした、何の可愛げもない傘だ。しかし機能性は重視されており、折り畳みであるにも関わらずなかなか丈夫な優れものだ。
その瞬間、未以子の瞳がキラキラと輝いた。
「わぁ、さすが来見っ、準備がいいっ。」
「まぁね。」
「ね、よかったら、」
「仕方ないからあんたも入れて帰ってあげるわ。」
被せるように言い捨てた言葉に、未以子の顔が簡単に嬉しそうに輝く。
「ありがとう、来見、だいすきっ。」
未以子は何の躊躇いもなくそう言って、簡単に人懐っこい笑顔を向けてくる。
身体の中をどうしようもない歓喜と、なんとも言えない苦味が、くるくると回りながら通り抜けていった。
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