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芸術とスポーツと
「俺の裸を盗み見て、そのうえ絵まで描いてたのか!? ヘンタイ女かよ!」
桜木勇斗は明らかに侮蔑の視線で私を睨みつけた。
「ち、ちがう! これは芸術なの! ギリシャ神話の彫刻ようなあなたの身体をただスケッチしておきたくて……」
盗み見てたのは悪かったけど、ヘンタイ女なんてあんまりだ。
「彫刻ってあれか? 美術室に置いてあって模写とかに使うやつ」
「そうなの! あなたの身体はどこもかしこも完璧で、熱き想いを内に秘めていることが伝わってくるもの。これを芸術と言わずして……」
「なら、せめて先に了解とれよ。盗み見て勝手にスケッチしてたら、ただのヘンタイだろ」
「だからそうじゃなくて!」
「じゃあ逆に聞くけど、あんたが水着姿でいるところを勝手に盗み見てスケッチしてたら、どう思うよ?」
「キモっ。警察呼びます」
「だろ? やっぱりあんたは、ただのヘンタイ女じゃねぇか」
し、しまった……!
弁解するつもりが墓穴を掘ってしまったぁぁぁ!!
「そ、そうだけど、私のはそうじゃなくて! ただ桜木君がとても美しくて素敵で、絵として永久にとどめておきたかっただけなの!」
「美しかったねぇ……。それ、男に言う台詞じゃねぇけどな」
桜木勇斗はまんざらでもないのか、怒りが少しだけ和らいでいるのを感じた。
これだ。褒め称えて、褒め倒して、機嫌良くさせてから逃げよう!
「桜木君は野球部のエースだもんね! アスリートだもんね! 私は運動神経皆無だから、憧れちゃう。本当にすごいなって、いつも思ってる。努力する姿は美しいよね。炎天の下でも毎日練習してるし。ホント尊敬しちゃう……」
「美辞麗句を並べ立てても無駄だそ。センスねぇしな。どんだけ言葉を重ねようが、あんたはただのヘンタイ女だ」
桜木勇斗はにやりと笑い、私を見下ろした。驚く私の目の前で愛用のスケッチブックを取り上げてしまった。
「私のスケッチブック!」
「これは預かっておく。俺の身体が描き込まれるからな。勝手にスケッチした代償は払ってもらうぜ?」
爽やかなスポーツイケメンが、本性をさらけ出した瞬間だった。
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