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燃ゆるグラウンド
「炎天の下を何処へ行く。
燃ゆる想いを胸に抱え……」
グラウンドでランニングする野球部員たちを見つめながら、私は独り言ちた。
我が校の野球部は、何度も甲子園出場を果たした名門校だ。野球部を応援するための応援団や吹奏楽部、さらにチアリーディング部まである。
ゆえに野球部員は女子生徒の憧れの対象になりやすい。エースで整った容貌をもつ男子なら尚更だ。今日も野球部の応援に精を出す女子生徒は多い。
「この猛暑の中、それぞれよく頑張るよねぇ。ま、私には関係ないんだけど」
これまでもこれからも、私こと、佐野 瑞希には一切関わりの無い世界。そう思っていた。
「そのはずだったんだけどねぇ……」
美術部員の私に、運動部の花形である野球部と縁などあるはずもなかった。
……少なくともこれまでは。
「見ちゃったんだよね、あれを……。あの姿を見たら、絵描きのはしくれとして黙ってられないよ」
一週間ほど前のことだ。
美術部での活動を終えて帰ろうとすると、突如雨が降り始めた。どうやら夕立らしい。ついさっきまで晴天だったのに。
「これだから夏はイヤだよ。どうしよう、傘持ってきてない……」
夕立なら、少し待てば雨は止むだろう。そう考えた私は時間をつぶすため、下駄箱から校舎のほうへ戻ろうとした。その時、体育館と校舎の間で野球部員が雨宿りをしているのが見えた。
「あれ? 今日は監督の都合で野球部はお休みって聞いたけど……」
だから今日は静かに絵に集中していられたのだ。
雨宿りをしている野球部に見覚えがあった。エースとして活躍している、桜木 勇斗だ。整った顔立ちをもつ彼は女子生徒の人気も高いと聞いている。
「何してるんだろう……?」
なんとなく気になった私は、少しだけ桜木勇斗に近づき、こっそりと見つめた。
その何気ない行為が、私の運命を変えていくとも知らず……。
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