第五章[大人]

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入学式後の講堂の壇上に上がり、新任教師として紹介された時。 壇上からすぐに彼女が目についた。 まさか? 夢でも何でもない現実だった。 俺は美術科クラスの副担任だった。 専門は数学だったが、美術の教員免許も持っていたことで俺は彼女のいるクラスの副担任として彼女の目の前に立っていた。 担任を任されていた先生は、一人一人自己紹介がてらに夢を話すように指示していて…俺は何度となく彼女と目があっていたが彼女はただ微笑んでいるだけだった。 「谷川先生?」 「え?あ…じゃー。」 担任は俺に名簿を渡し、出席番号順に名前を呼ばせていた。 こんな苦痛。 「澤井…林檎さん。」 「はい。」 現実だった、 俺の目の前にいた…昨日心奪われた女性、 が、俺が務める高校の生徒だったなんて。 約束のその場所に着いたが、急に怖くなった。 「夢は、美術の先生になりたいです。」 目をキラキラと輝かせ語った、彼女の将来を奪ってしまうと思ったんだ。
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