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最終章[潤う心]
「ね?夕輝、先生?」
「え?ああ…悪い。」
「…ふう、約束の日。本当は来てくれたって…さっき。」
彼女は、廊下ですれ違う度…
学校行事の度、
去年まで数学の教科を受け持っていた授業中の度、
ずっと目が合っても眉間にしわを寄せられていたがようやく笑顔を見せてくれた。
「あ、うん。実は、教師になりたてで…林檎の入学式の前日。緊張から体調崩して帰宅してる途中で林檎と出会ったんだ。」
ダサくて彼女の顔を見れなかった、
もう何年も前の話なのに…。
「うん…ずいぶん後で、具合悪かったって知った。」
「そうか、」
おもむろに見つめた彼女の表情は、
あの日一瞬にして俺の心を震わせた優しく愛おしい表情だったが。
「夕輝、せ…ふう、先生人気だから。」
必死に微笑んでくれながらも、林檎は目にたくさんの涙をためていた。
「はあ、約束のあの日。来てくれたのに…。」
「林檎?」
「ぐ…具合でも悪くなった?」
「いや。林檎が美術教師になりたいって言った夢を俺の想いで壊すんじゃないかと怖くなったんだ。」
あの日のように彼女は、俺の車の助手席に座ってくれている。
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