無限に広がるダイヤの輝き

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私が彼女に出会ったのは、去年の4月のことだった。例年やってくる桜の季節とは違い、それぞれが離れて生活する春休みだった。ちょうどその年に中学校を卒業した私は、中学のクラスメイトと離れ、居場所や自分がどのようにして生きていけばよいのか全く分からなかった。また、人見知りな完全にアウェーな場所に行って、自分が高校生になって大人への階段を歩み始めることがとても嫌いだった。なぜなら、”大人が嫌いだから” そのイメージを払拭してくれたのは紛れもなく彼女だった。一回も現実であったことはないし、彼女は私のことを一つのファンとしてしか見ていないだろう。しかし、その彼女の正直なところがますます私を好きにさせた。6月になって学校がオンラインから切り替わった。まだ、学校になじまない私を家に帰って癒してくれた。テレビの中で、パソコンの中で精一杯笑う彼女の姿はとても綺麗で、私にはない何かの輝きを持っていた。詳しい月日は覚えていないが、彼女の声に直接触れる機会があった。「変わらないもの」だった。彼女の体から出された何とも言えぬ音色は私の体の隅々までにいきわたってますます透明に見えた。身体からこぼれゆく音に静止するように尋ねてもあの声は帰ってこない。音楽の儚さに触れられた気がした。その儚さのせいだろうか、彼女からは凛と咲く一輪の花のようになり、美しさや輝き、透明な花びらが作り出す幻想的な世界に取り込まれていった。しかし、私は感じていた。幻想はいつか壊れてしまうのではないか。私は一種の特殊能力のようなものを持っている。人間が壊れる音が聞こえるのである。人が笑う時、何とも言えぬ輝きを放つとき、そこには終わりが見える。夏の風物詩の花火のように終わってしまう美しさというものを知っている。 私の予感は的中した。7月4日がやってきてしまったと同時に、彼女は本当の意思を打ち明けた。私たちに伝わらないよう必死に隠してきたのだろうと、胸が痛くなった。純粋で透明な彼女が隠していたことがあったからである。しかし、その隠し事は隠し事ではなかった。メンバーに相談し、自立しようと思い立った、羽ばたこうと自分で決めた日だったのだ。約五年間の月日を得て、仲間、友、応援してくれる人々、傷を背負った毎日に終止符を打ち、人生の中で新たな輝きを放つのだ。 8月22日。ファンに見送られて、福岡ドームを後にした。 その背中には白い翼が間違いなく私の目には見えた。 「サヨナラに強くなれ。この出会いに意味がある。」 そう信じて。 桃子、ありがとう。お疲れ様。幸せに。
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