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第2話アドリアンの家督相続
前書き
アドリアンは今エピソードでも追加で瀝青炭を掘りヒヴァで売り儲けます。飢饉時の対策を立てた功績により、ついに父親を引退させ、家督を継ぎます。更に将来の妻となるエカチェリーナと知り合います。
本文
★中央アジアの人々のことわざ
ロープは長いのがよい。話は短いのがよい。
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新たな登場人物
アドリアンの妹の4人「妹長女ミルドレッド14歳……ラドミラの子、異母妹。妹次女ケイト13歳……ラドミラの子、異母妹。妹3女アリサ12歳……トクトゥの子、同母妹。妹4女ハティジェ11歳……トクトゥの子、同母妹」
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1363年4月19日水曜日昼12時……カラガンダ
もう一度石炭を掘りに来た。ヒヴァで採掘道具を買い込み、男女奴隷も30人づつ購入し、馬も替え馬も含めて180頭買い込んだ。大分はかどり、60トン採れた。掘るのに3日、カラガンダ→ヒヴァ→オルダバザールと合計2週間経過した。小金貨60×1000=6万枚を稼いだ。
オルダバザールに40mの深さの井戸を掘り、横穴を何十本も引いて、そのいくつかに倉庫を作った。金のインゴット60枚に交換し、全部地下の井戸倉庫に保管した。弟たちと事前に相談しておいたものだ。
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10年に一度位の割合で草原地帯にジュト飢饉……注①が訪れ、遊牧している馬、羊、山羊やぎ、駱駝らくだ達の8割が死んでしまう。そうなると俺達一族はおしまいだ。
父や叔父たちは毎日馬乳酒クムス……注②ばかり飲んでいて働かず、当然先のことなど考えない。女の人たちは男たちと違って労働はきちんとするが、先のことはあまり考えない。至って楽観的だ。
将来のことを考えて計画するのは一族の中でアドリアンだけだ。弟たち2人は少し考えるようになり、毎日働かずぶらぶらしている父や叔父たちを嫌っている。アドリアンは飢饉の備えができたところで、遊牧の仕事を男女の奴隷たちに任せた。
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3人で狩猟に出かけるつもりだ。季節も良いし、狼退治しよう。アラル海の沿岸に出掛けた。ヒヴァやクニャ・ウルゲンチ辺りは肥沃なデルタ地帯で至る所に沼沢地がある。アシ、ヨシなど草むらが多いので鳥や獣も沢山棲息している。トラもいる。
勿論アラル海では魚も良く捕れる。人気なのはアラル-チョウザメロシア語でship、スズキ同sudak、ヴォーヴラ同vovla……干物用の魚である。
妹たち4人がアドリアンのユルト「天幕」を訪れた。
どうした。お前たちが来るなんて珍しいな。
最年長のミルドレッドが発言する。
私達、今からバルナウルカ川「オビ川支流」沿いにあるバルナウル……注③に行こうと思うの。
ええ!そんな遠いところに行くのか。何をしに行くのだ。
私達が日頃作ったものを売りに行くのよ。
イマキヤじゃ駄目なのか?バルナウルは遠いぞ。俺たちが夏営地にしているイマキヤで売れば良いだろう。
バルナウルじゃないと駄目なの。砂金をついでに探してこようと思っているのよ。
まあ、そんなことだろうと思っていたよ。お前たちだけじゃ危険だから、牧夫たちを20人付けてやるよ。
やったね。兄さん、ありがとう。
まあ、良いけど。砂金が採れなくても、お前たちが作った毛皮や羊毛を用いた衣服や帳幕、馬具や装身具などはちゃんと売ってこいよ。馬乳酒クムスも牧夫たちに持って行かせろよ
うん。羊毛を加工した厚手の毛皮衣服や帽子、靴も売ってくるわ。去年作った馬具や装身具は美しく飾り立てられていると人気があったのよ。
4人の妹たちはバイの者たちよりも先にイマキヤ→バルナウルへと出発しました。
5月18日木曜日昼12時……アラル海沿岸
昼飯を食べていると悲鳴が聞こえた。慌てて向かうと虎が女の人を襲っている。すでに5人やられて倒れている。アドリアンは弓を引き絞り、虎の眉間を撃った。虎が怯んで女の人を落とした。
アドリアンは続いて5連発を首から上に当てて虎の両目を潰した。あとは暴れまわる虎に斬りつけ何とか倒した。女の人の息を確認する。かすかだが息がある。弟たちに虎の肉と皮を捌さばかせて、女の人を近くのクニャ・ウルゲンチまで連れて行った。
城の門番に城門を開けてもらい、医者に見せた。大怪我をしていたが何とか助かったようだ。医者に名前だけ告げてそのまま弟たちの所に戻り、肉と皮をオルダバザールまで持ち帰った。
6月4日日曜日午後3時……オルダバザール
ラドミラさんと母親のトクトゥを自分のユルタに招いた。将来のことを2人に打ち明けるつもりだ。
まず2人に飢饉の備えが出来たことを話した。2人は驚き、アドリアンのことを口を極めて褒めた。お前は将来大ハンになる器だ。頭も切れるし、身体が強健だ。女たちは早くお前がバイを継げば良いと思っているよ。
トクトゥはミハイルに引退するよう説得すると言った。ラドミラも賛成した。アドリアンは小金貨100枚を母親に渡した。渋ったらこれを渡せば良い。
トクトゥはクリルタイを招集した。議題はミハイルの引退とアドリアンの家督相続だ。女たちは全員賛成した。父親と叔父たちがしぶったが、「一人あたりに小金貨100枚渡す。その金を元手にして交易商人になれば良い」と説得した。彼らは納得した。
これで決まった。ここでアドリアンが飢饉の備えが出来ていることと将来スルタンとなり、ジョチ・ウルスの大ハンを目指すから協力してくれと告げた。大歓声があがり、祝宴が開かれた。
6月4日日曜日午後10時……オルダバザール春営地
独立してアウルを持った。勿論ユルタは1つだけだ。今夜はラドミラさんが忍んで来てくれた。ここの方が誰も居ないので思う存分嬌声を張り上げられるから良いのだそうだ。俺も久し振りにラドミラさんを抱ける。そう思うと嬉しかった。俺の年齢では毎日やりたいものだ。ラドミラさんの話によると女の方も30歳過ぎると時々催すそうだ。ただその時には亭主のほうが若い女を作ってそちらの方に行ってしまうんだとか。中々上手く行かないものだ。
ラドミラさんによると
若いときのミハイルと比べてもアドリアンの方が数段上だ。アドリアンは精力が強いし、硬さが群を抜いている。大概の男は一度逝くと萎えてしまい、柔らかくなってしまう。もう一度となると難しい。何時も女のほうが取り残されてしまうんだ。
その点お前は何回でも平気なようだ。お前はきっと将来女泣かせになるよ。女がお前の強い味方になってくれる。だけど利用したら駄目だ。良いね。利用したら女だけでなく誰でも傷つく。何をする場合でもきちんと訳を話すんだ。理解してもらい味方になってもらうんだ。そうしたら女はお前を裏切らない。まあお母さんと私は何時でもお前の味方だよ。
今日は家督を継げたこともあり、アドリアンは何時もより元気だった。ラドミラも満足したようだ。2人はそのままぐっすり眠ってしまった。
6月5日月曜日朝7時……アドリアンのユルタ
ラドミラさんと2人で朝食を食べているとお母さんが呼びに来た。何事だろうと思ってお母さんのところに行くと、アク・オルダのハンが今すぐスグナク……アク・オルダの首都に来いと言っているそうだ。
呼ばれるような覚えは無いが仕方ない。スグナクまでは比較的近い。夏営地への準備の指示は弟2人に任せて出発した。
チャガタイ・アミールたちの割拠
講談社選書メチェ「ティムール帝国」川口琢司著。P41
6月8日木曜日午前10時……スグナク城
門番に名前を告げた。ハンのオルダ幕営地に案内された。
トグリ・テムルが聞く。
お前がアドリアンか?
はい、私がミハイル・バザロフの長子アドリアン・バザロフです。
エカチェリーナが口を添え、
よく助けてくれたわね。有難う。お礼を云うわ。貴方この子に助けてもらったのよ。この子は1人で虎を退治したのよ。
私の部下が5人がかりでやって殺されたのにこの子はたった1人で虎を退治したのよ。貴方この子になにか褒美を上げてちょうだい。
そうだな。聞く所によると、ミハイルが引退してお前に家督を譲ったそうだな。
そうです。最近家督を継ぎました。
それではお前にスルタンを名乗ることを許可し、領地としてジェンドjendを与えよう。
有難う御座います。でも私の望みは全然別のものです。
何だと。お前の望みは一体何だ。言ってみろ。
私は以前ヒヴァでエカチェリーナ様に一度お目にかかったことがあります。その時にもお伝えしましたが、私の望みはエカチェリーナ様を私の妻にすることです。他に望みはありません。
何だと。この不埒者を今すぐ殺せ。連れて行け。
お待ち下さい。大ハン様。子供の言ったことです。お許し下さい。この子は私の命を助けてくれました。私に免じてこの子の不敬をお許し下さい。
そうか。お前が気にしないなら許してやろう。
この身の程知らずの小僧め。二度と来るんじゃないぞ。早く出ていけ。
アドリアンは追い出されました。アドリアンは馬に乗り、家路を急ぎました。途中で誰かが追いかけてきます。馬を止めるとエカチェリーナでした。
貴方も馬鹿ね。ハンの前で告白するなんて。でも嬉しかったわ。命をかけた告白だったわね。忘れないわ。
アドリアンはエカチェリーナを抱き締めてキスを奪い芳しい匂いをかぎました。先の約束など出来ない2人ですが、ここで2人は心も体も固く結ばれました。
アドリアンはエカチェリーナに誓いました。
何時の日かトグリ・テムルを打倒し、貴女を奪い取ってみせる。
貴方を信じて待っているわ。
エカチェリーナはスグナク城に戻り、アドリアンはオルダバザールの春営地に戻りました。
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注①……ジュト飢饉
遊牧民の生活において最も恐れられたのはジュトとよばれる天災であった。これは旱魃かんばつの夏につづく雪の深いきびしい冬に起こった。夏の間家畜に最低量の牧草をもあたえることができず,冬もまた牧草が少なく,しかも雪が深いために放牧が困難であるのに加えて,春先雪の表面がわずかに解け,ついで訪れた大寒波のために表面が凍結して,家畜は雪の下から牧草をとり出して食べることができない。このため,大量の家畜が飢えて死ぬ。これがジュトである。
ときには,雪の上に雨が降り,それが凍結することもあった。きびしいジュトに会えば,多くの遊牧民が大打撃をうけて落ちぶれた。大量の家畜が死ぬと,人間もまた餓死した。天候が好転し,牧草が現れると,多くの動物たちは衰弱状態からたちなおった。ジュトは10~12年ごとに繰返すといわれる。そして打撃から回復するには少なくとも3~4年はかかった。中央アジァ全域に広まっている十二支によれば,多くの場合ジュトは卯ウサギ年……コヤンにあたっている。カザフの人々は卯年を凶年と考えていた。
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注②……馬乳酒クムス
遊牧民の食事の中心は馬,羊,ヤギなどの家畜の肉であった.その食事のお伴として,また,家族・親戚・友人・隣人との団欒の際に,馬乳酒である「クムス」が親しまれてきた。
遊牧民が集まる場では必ずクムスが飲まれることによってお互いの信頼関係が強化され,不安定で厳しい生活環境の中,カザフの広大な草原での遊牧生活が可能となった。
クムスのアルコール成分はいずれも1%から3%であり,酒というよりは乳酸を含む水替わりの飲料として認識され,子どもから大人まで毎日大量に飲用されてきた。クムスはビタミンCを多く含む飲料であり,牧畜生活のため野菜摂取が極めて限られていた遊牧民の重要な栄養源でもあった。
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注③……バルナウル
1300年代のオビ川流域には、現在のカザフスタンに位置するバルナウルという都市が存在していました。バルナウルはオビ川の支流であるバルナウルカ川沿いに位置し、交通の要所として栄えていました。
当時のバルナウルは、キプチャク草原地帯に位置しており、周囲には草原や森林が広がっていました。この地域は、テュルク系民族の遊牧民が暮らしていたため、草原地帯の中心地として重要な役割を果たしていました。
バルナウルは、商業の中心地としても発展し、ヨーロッパや中央アジア、中東といった地域との交易が盛んでした。特に、イランとの交易は重要で、馬、鳥、獣皮、綿、毛皮、蜂蜜、金、銀、真珠などが輸出されていました。
イマキヤとバルナウル
バルナウルには、当時のテュルク系民族の文化を反映した建築物や遺跡が残っています。現在でも、バルナウルはカザフスタンの重要な都市の一つであり、観光地としても人気があります。バルナウルには、当時のテュルク系民族の文化を反映した建築物や遺跡が残っています。現在でも、バルナウルはカザフスタンの重要な都市の一つであり、観光地としても人気があります。
1300年代のイマキヤは現在のカザフスタン北東部にあり、イルティシュ川沿いに位置していました。一方、バルナウルは現在のロシア・アルタイ地方にあり、バルナウルカ川「オビ川支流」沿いに位置していました。このため、イマキヤからバルナウルに向かうには陸路を馬とラクダで進むことになります。
オルダバザールとイマキヤ
1300年代のオルダバザールは、キジルクム砂漠の北東部、現在のカザフスタンの南東部に位置していました。一方、イマキヤは、オルダバザールよりもさらに東、イルティシュ川の流域に位置していました。オルダバザールからイマキヤまでの距離は約500キロメートルです。
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