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第4話夏営地イマキヤ続き
★中央アジアの人々のことわざ
未だかって誰も知らない、刺のないバラも、労働のない成功も。
☆アドリアンたちの行動
1363年6月18日日曜日午前10時……夏営地イマキヤ
大半はイマキヤに到着していた。ラクダたちもそろそろ到着する。イマキヤとその北西にあるハカン・キマクはモンゴルに滅ぼされたキマック連合の主な町であった。
ハカン・キマクはその名の通り、キマック連合の王族や貴族たちが住む宮殿の所在地であった。市場や寺院があった。今はモンゴルに取り壊されて廃墟となっている。
イマキヤはキマック連合の交易の中心であった。今もなお草原の道の交易路の中継地として栄えている。夏は冷涼で大変快適である。個々の住民は半数が定住し耕作・牧畜を行っている。残りの半数はアドリアンたちのような完全な遊牧民である。
定住民たちは小麦、キビ、大麦、マメ科植物、米を耕作する。ブドウを栽培し、養蜂も行いハチミツを出荷している。牧畜はやはり馬、山羊、羊である。貧しいものは牛を育てている。夏季以外の寒さを凌ぐために定住民たちはトンネルを何百本も掘ってトンネルの中に住居を作っていた。
アドリアンたちは井戸を掘るついでにトンネル工事も請け負い金銭報酬を得ていた。アドリアンの兄弟姉妹と従兄弟・従姉妹たちと部下たちが工事を請け負った。
この季節のメインの仕事は獣のグループ狩りである。戦闘訓練にたいへん役に立つ。この時には部下たちも参加する。主に北部の森林地帯で行うが、トラやユキヒョウを狙ってもっと北の方やカスピ海まで行くこともある。
上図の西シベリアにあるチンギ・チュラ周辺に向かうことが多い。この辺りは漁労及び狩猟採集を生業とする南部ハンティ族の縄張りである。
ハンティ族の捕る野生動物は、哺乳類ではヒグマ、クズリ、アカギツネ、キタキツネ、イタチ、テン、オコジョ、ミンク、カワウソ、野生トナカイ、ノウサギ、リス等、鳥類ではガン、カモ、ハクチョウ、ライチョウ等である。
アドリアンは辺りで一番高い木の上にスルスルと登り、獲物が居るかどうか確認する。貂や黒貂、白貂などはめったに見つからない。今日はトナカイ50匹、アカキツネ50匹、ミンク5匹、カワウソ30匹、ヘラシカ20匹、貂3匹、黒貂5匹、白貂2匹、ビーバー10匹を見つけて犬に追わせた。兄弟たちに処理を任せた。
テムジンがヒグマを発見した。俺とテムジン及びジェベの3人で倒した。獲物を兄弟たちがさばいて肉や内蔵及び毛皮をすべて埋めた。自然冷凍になっている。
ユルタを組み立ててから宴会を開いた。今日の功労者は俺とテムジン及びジェベだ。テムジンとジェベに大金貨を5枚ずつやった。全員に小金貨を10枚ずつやった。大喜びして酒盛りが始まった。
ムカリが悔しそうに、
明日はユキヒョウを狙ってもっと北の方に遠征しよう。
と云う。
ジェベが、
今は季節が真夏に向かっている。雪が降るのもかなり北まで行かないと期待できない。無理をせず秋になるのを待とう。
と云う。
テムジンが、
一度ペルミ「現在のロシア・モロトフ」地方に行ってみたい。舟で川を下れば行けるだろう。木材を伐採するのも良いんじゃないか。
という。皆賛成した。明日からの英気を養うため全員ユルタでぐっすり眠った。
1363年7月3日月曜日朝5時…チンギ・チュラ
何時もの時間に目を覚ましたアドリアンは仲間と一緒にペルミ「モロトフ」地方に向かった。
川を上りウラル山脈を西に越えようとした時、賊に襲われた。100人ほどだったが、全員捕縛した。尋問すると現地人だった。ウゴール人だと言っていた。多分今日のハンティの祖先だと思うがはっきりしたことは分からない。
チュメニ・ハン国の奴らに何時も毛皮や蜜蝋を強奪されているそうだ。
最近では森林まで勝手に伐採されて困っている。
と云う。
アドリアンが、
俺達の傘下に入らないか?俺達は交易の利益の3%を出すだけで保護してやるぞ。毛皮や蜜蝋・木材は妥当な価格で購入してやる。
連中はそういうことなら傘下に入ると約束した。族長のところに行き、契約を取り交わした。大量の毛皮や蜜蝋および木タールを手持ちの瀝青炭と交換した。
アドリアンはここに砦を築くことにした。ジャムカを千戸長に任命し、奴隷を使って砦を築かせ守らせた。部族の者にペルミ「モロトフ」まで案内させた。
16世紀のロシアとシベリア
出典:「シベリア先住民の歴史」彩流社。ジェームス・フォーシス著、森本和夫訳。P42
「西シベリアの民族およびウラル越え交通路」九州大学学術情報リポジトリ:三上 正利論文P66
7月6日木曜日午後9時…カマ川流域のペルミ「モロトフ」
ここで交易商人から戦闘奴隷を3,000名購入した。大金貨1,000枚支払った。ノヴゴロド公国の貴族達に収奪されていた住民を救うべくアドリアンはペルミにも砦を築いた。チラウンを千戸長に任命し、奴隷を使って砦を築かせ守らせた。
アドリアンは交易商人から「ブルガルまで川船に乗って1週間で往復できる。ブルカルにはイスラム商人が優秀な奴隷を売っている」 と聞いた。アドリアンは大金貨3,000枚を費やしてブルガルで各種奴隷を合計7,000名購入した。
手持ちの瀝青炭や毛皮・蜜蝋などを販売して金のインゴット1,000枚を得た。十分に元が取れたわけだ。如何にこの地域では瀝青炭や毛皮・蜜蝋が必要か再認識した。十分軍備が整ったので、チュメニ・ハン国と決着を着けることにした。
1363年8月6日日曜日午後10時…キシリク
チンギ・チュラ「チュメニ」に向かい、首都のキシリクを襲撃した。今まで襲撃を受けたことがなく油断していた奴らは簡単に降伏した。シバン一族の幹部及びチュメニ・ハン国のハンとその息子を処刑した。残りの連中は捕虜にした。今後はキシリクを第2の夏営地として使用する。戦利品として大量の毛皮、蜜蝋、木タール、魚油、冷凍肉、金塊100キログラム及び捕虜1,000人、女奴隷500名を手に入れた。留守部隊をキシリクに置き、イマキヤまで引き上げた。
1363年8月14日月曜日朝5時……イマキヤの夏営地
何時もの時間に目が覚めた。麻製の蚊帳を吊るして寝たので蚊に悩まされることもなかった。ラドミラも目を覚ませたようだ。アドリアンの胸に顔をうずめて甘えてくる。2人とも身支度を済ませて起き上がった。
イマキヤでは比較的蚊が少ないが、西シベリアでは皆蚊に悩まされた。寝る時はユルタの中に蚊帳を吊るすから良いが、外では蚊が群がってくる。アドリアンの蚊に刺された赤い跡をラドミラが丁寧に舐めてくれる。
父のミハイルが昨晩7時半頃訪れて来た。アドリアンとラドミラの情事を聞きつけたらしい。
何のようだと聞くと、
ラドミラは出産が近い。その件でお前に金を貰いに来た。事を荒立てたくなければ金を出せ。
幾ら欲しいんだ。
大金貨を1枚寄越せ。ここで出産させるな。
アドリアンは了解した。
ラドミラには言わなかったが、ラドミラの方から言い出してきた。
ラドミラ一家はアルタイ地方の親戚のところに身を寄せる。
ラドミラ30歳
弟4男クタイバ12歳……ラドミラの子、異母弟
弟5男スハイル11歳……ラドミラの子、異母弟
妹長女ミルドレッド14歳……ラドミラの子、異母妹
妹次女ケイト13歳……ラドミラの子、異母妹
を引き連れてアルタイ山脈一帯とイルティシュ河上流域を遊牧地としているテレングト部族のところに行くのだ。ラドミラの両親の出身部族でラドミラの故郷だ。
俺は反対したがラドミラの決意は固かった。やむを得ず認めたが、金のインゴット10枚と大金貨100枚及び中金貨100枚、小金貨1,000枚を渡した。こんなに必要ないと言ったが無理やり持たせた。
ラドミラは出産後帰ってくる。子供達は祖父母たちに騎馬イヌワシ狩猟を教わるつもりらしい。テムジンたちもぜひ同行したいと云うので許可した。俺も行きたいがそうは行かない。ラドミラたちは朝食を食べたあとすぐに出発した。
ミルドレッドとケイトたちはアドリアンより先にイマキヤに到着「6月27日」しており、ラドミラから話を聞いてミルドレッドとケイトのふたりはテレングト部族の住むアルタイ山麓へと向かった。ケイトはイヌワシ狩猟を襲われると聞き張り切っていたそうだ。
アリサ12歳とハティジェ11歳のふたりは牧夫と一緒にウルゲンチまで毛皮を売りに出かけた。
ラドミラたちと入れ替わりにラドミラの姉妹たち4家族が来る予定だ。イヌワシ猟を別の場所で試してみたいそうだ。アドリアンは大歓迎して迎えると返答した。
8月20日日曜日午前7時……イマキヤの夏営地
部下たちと兄弟及び従兄弟・従姉妹たちを引き連れて奴隷たちも合わせると総勢1万名と馬3万頭及び1万台の馬車でカラガンダに向かった。
8月23日水曜日午前7時……カラガンダ
3日掛けて3,000トンの瀝青炭を掘り出した。小金貨300万枚で売れる。金のインゴットなら3万枚だ。ラドミラの姉妹たち4家族も途中から来て手伝ってくれた。2,000トン分をジェンドに送った。
9月3日日曜日午前7時……ヒヴァの市場
1,000トンの瀝青炭を売却した。金のインゴット1万枚を得た。食料をあるだけ買い込んだ。大金貨1,000枚支払った。部下たちと兄弟及び従兄弟・従姉妹たち・ラドミラの姉妹たち4家族全員に金のインゴットを1枚ずつ支給した。
1年分の給料相当なので全員の士気が高まった。部下たちと午後5時にここで会おうと約束した。アドリアンはエカチェリーナに会いに行った。
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画面中央のやや右上にオルダ・バザールがあり、その左下辺りにバーチャリケントという街があります。画面の右上に上からハカン・キマクその下にイマキヤ「キマキヤ」と言う街があります。
画面の中央の湖はアラル海である。アラル海には2つの大きな川が注いでいます。北にあるのがシルダリア川、南にあるのがアムダリア川です。シルダリア川上にいくつか街があり、左からヤンギケント、スグナクです。ヤンギケントのすぐ南「アラル海の直ぐ東」にジェンドがあります。2つの大河に囲まれたところが北からキジルクム砂漠、その南がマー・ワラー・アンナフルであり、2つの有名な街ブハラとサマルカンドがあります。ロシア語で書いてありますが、何となく分かるでしょう。アムダリア川沿いには西からウルゲンチ、キヤト、ヒヴァがあります。左側にはカスピ海がありますね。参考までにロシア語のアルファベットを書いておきます。
ロシア語の母音( )内は小文字
硬母音 А (а) Ы (ы) У (у) Э (э) О (о)
軟母音 Я (я) И (и) Ю (ю) Е (е) Ё (ё)
大文字 小文字 文字の名称 発音 ミ ニ 解 説
А а アー ア 母音;日本語の「あ」;アクセントのないとき「イ」の音に近くなる
Б б ベー ブ 英語のBに相当;単語の最後では「プ」
В в ヴェー ヴ 英語のVに相当;単語の最後では「フ」
Г г ゲー グ ギリシャ文字の Γ(ガンマ)から;鼻から息を抜かない;単語の最後では「ク」
Д д デー ドゥ 英語のDに相当;単語の最後では「トゥ」
Е е イェー イェ 母音;アクセントないとき「イ」に近い発音
Ё ё ィヨー ィヨ 母音
Ж ж ジェー ジ 舌を口の中のどこにも接触させずに口を突き出し気味にして「ジー」と発音
З з ゼー ズ 英語のzに相当
И и イー イ 母音;口を横に大きくひらいて「い」
Й й イ・クラートカヤ ィ 日本語で「おい!」というときの短い「イ」
К к カー ク 英語のKと同じ
Л л エル ル 英語のLと同じ;巻き舌にしない
М м エム ム 英語のMと同じ
Н н エヌ ヌ 英語のHではなく、英語のNに相当。「ン」よりも「ヌ」に近い発音
О о オー オ 母音;英語のOに相当;アクセントないとき「ア」に近い発音
П п ペー プ 英語のPに相当;ギリシャ文字の Π(パイ-円周率でおなじみ)から
Р р エる る 英語のRに相当;巻き舌の「る」
С с エス ス 英語のSに相当
Т т テー トゥ 英語のTに相当
У у ウー ウ 母音;口を突きだして「うー」と発音
Ф ф エフ フ 英語のFに相当
Х х ハー フ 「は~!」とため息をつくときに出るような音
Ц ц ツェー ツ 日本語の「つ」とほとんど同じ
Ч ч チェー チ 日本語のチより舌を奥にひっこめて
Ш ш シャー シ 舌を口の中のどこにも接触させずに口を突き出し気味にして「シー」という
Щ щ しャー シ 日本語の「し」を強く発音する音に近い
Ъ ъ トビョールドゥイ・ズナーク - 硬音記号
Ы ы ゥイ ゥイ 母音;唇をイのかたちにしてウと発音するときのイとウの中間の音
Ь ь ミャーフキ・ズナーク - 軟音記号
Э э エー エ 母音;口を横にひろげて発音
Ю ю ユー ユ 母音;口を横にひろげて発音
Я я ヤー ヤー 母音;アクセントないとき「イ」の発音;単語の末尾では発音通り
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9月3日日曜日昼12時……ヒヴァの宿屋
エカチェリーナは約束通りに来てくれた。楽しい時間を過ごして2人は満足し幸せを感じた。次の約束をして別れた。
9月7日木曜日午後5時……ヒヴァの市場
部下たちに100年以上使用されなくなっている町ジェンド……注①を使えるように整備しようと提案した。皆賛成した。
早速アラル海の東に位置する都市ジェンドに向かった。今の冬営地キジルクム砂漠には固定した基地を置いていない。元々遊牧民は固定住居を持たない。ユルタで十分なのだ。ただ今のアドリアンのように財産を持つと保管する場所が必要になる。
ラドミラの姉妹たちの4家族と思っていたが正確にはラドミラのお母さんラガド43歳の姉妹達の4家族だった。人数も32名の大集団である。アドリアンは32個のユルタを製作し、一人一人に騎馬と武具一式を渡した。大喜びしていた。アドリアンは冬の時期だけジェンドに定住してもらおうと思っていた。赤子の居る妻たちは赤子が育つまで定住して貰う。そのためにジェンドに固定住居を建設する必要がある。
9月11日月曜日朝10時……ジェンド
1万人の奴隷たちに命じてまず地下40mまで掘り下げて井戸を掘り、そこから10ヶ所の横穴を100m掘り進めた。固定住居を1万戸建設し、生活できるように設備を整えた。倉庫も1万個作り、金のインゴットも冬用の食料も保管した。井戸の蓋を閉め、外から分からないようにした。俺達は秋営地のオルダバザールに向かった。
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注①……アラル海の東に位置する都市の名前のジェンドは、ロシア語のローマ字表記で、yend、jend、djendの3表記があり、ここではジェンドjendを採用しました。
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