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第9話テムジンとミルドレッドが元の大都へ向かう
前書き
ミルドレッドはアドリアンの特命を受け、大元帝国を救出するため、元の首都大都へ向かう。風前の灯状態の元を救うことが出来るのだろうか?一方アドリアンは攻撃力を増強するためベルケサライ(ヴォルガ川中流域にあるジョチ・ウルスの首都)まで行きトルコ弓を購入する。射程距離が600mもあるスグレモノだが、手に入りづらい。高価なのだ。白犬と白馬を途中で手に入れる。少しずつ軍備が整っていく。
本文
★中央アジアの人々のことわざ
できることなら笑顔で屈託なく生きよ、喜びが過ぎ去るとしても、
つらさもまた永遠ではないのだ。
オルダ・ウルス
オグズ・ヤグブ州の地図
古い地図だが、ヤンギケントとジェンドの位置が良く分かる。
17世紀の西シベリア
出典:「シベリア先住民の歴史」彩流社。ジェームス・フォーシス著、森本和夫訳。P55
チュメニ
1364年1月15日月曜日午前5時:西シベリアのヴァシュガン平原
西シベリアのヴァシュガン平原を探索・狩猟していたモンゴル遊牧民夫婦テムジンとミルドレッドは、部下100名と共に突如としてセルクプ族1,000名の襲撃を受けました。ミルドレッドたちは弩を手にし、馬に乗っていました。一方、セルクプ族は短弓を持ち、革の防具で武装していましたが、徒歩で戦闘に臨んでいました。
ミルドレッドたちは14世紀のモンゴル末裔として、勇敢な戦士であり、弩や鋼鉄製の槍や刀剣を手にしていました。彼女たちの弩は弓よりも強力で、高速かつ遠距離まで矢を放つことができました。弩の頑丈な構造と安定性は、ミルドレッドたちに正確な射撃を可能にし、敵を的確に狙うことができました。また、弩の操作は簡単であり、迅速に矢を装填することができました。
戦闘の前に、ミルドレッドたちは戦いの準備を整えました。彼女たちは鉄製の兜や頭巾を身に着けました。兜には大きな鼻当てや眼帯が装着され、彼女たちの顔面を保護しました。
胴体を保護するためには、鎖帷子や板金製の胸当て、肩当て、背中当てが使用されました。これらの防具は重要な部位を保護しながらも、ミルドレッドたちの運動性を損なわずに戦闘を可能にしました。
手甲や足甲も装備され、彼女たちの手足を保護しました。鉄の板を編み合わせた鎖甲も使用され、全身をより確実に防御しました。また、ミルドレッドたちが馬に乗る際には、馬の脚にも防具が装着され、彼女たちと馬を守りました。
戦場では、ミルドレッドたちは大型の盾を手に持ちました。鉄板を張り合わせた盾は頑丈であり、敵の攻撃から彼女たち自身と仲間を守る役割を果たしました。盾の中央には突起があり、敵の武器をはね返す効果もありました。
ミルドレッドたちは馬に乗り、武器と防具を身にまといました。彼女たちの姿は勇ましく、弩を引き絞る力強い姿勢と、鋼鉄で守られた身体が一体となっていました。彼女たちの馬は優雅に動き、彼女たちを戦場へと駆り立てました。ミルドレッドたちの存在は敵に畏怖を与え、味方に勇気を与える光景でした。
戦闘が始まると、ミルドレッドたちは弩から一斉射撃を行い、セルクプ族に向けて矢を放ちました。彼女たちの弩の威力と正確さにより、多くのセルクプ族が倒れていきました。セルクプ族の短弓からは矢が放たれ、ミルドレッドたちに飛んできましたが、彼女たちの頑丈な防具と馬の速さが効果的にそれを阻みました。
ミルドレッドたちの部下もまた、勇敢に戦いました。彼らは槍や刀剣を振るい、セルクプ族と激しい白兵戦を展開しました。彼らの団結と熟練した戦闘技術により、セルクプ族は圧倒されていきました。
激しい戦闘の末、ミルドレッドたちと彼らの部下は勝利を収めました。セルクプ族は敗走し、戦場には散乱した武具と倒れた者たちが残されました。テムジンとミルドレッドは部下たちと共に勝利を喜び、彼らの勇気と戦略に感謝しました。彼らの勇敢な戦いは、その地域でのモンゴル遊牧民の威信を高める一方、セルクプ族に対しても強力な警告となりました。
セルクプ族の族長カルギル34歳と彼の妻セレナ28歳を捕らえ、壮丁「15歳から30歳」男女100名ずつを選んで捕虜とした。カルギルに命じてセルクプ族からヤサク「税金」を取り立てることに合意させた。カルギル傘下の部族民は3,000名居ることから、一年に一度3,000名の人間から一人あたり黒貂の毛皮一枚を取り立てる。取り敢えず、黒貂の毛皮3,000枚を得たので、カルギルたちは解放し、妻のセレナと捕虜の200名はチュメニまで同行させた。セレナは人質である。
1364年2月1日木曜日午後1時:チュメニ
テムジンとミルドレッド、ジェルメとケイトの二組の夫婦はチュメニで落ち合うことが出来た。互いに敵と遭遇しながらも無事に生きながらえたことを喜び合い、今後のことを話し合った。
バシキール人の首長イルガム (Ilgam)の身代金を黒貂1万枚とし、彼らの本拠地「現在のロシアのウファ市」に使者を送り、要求した。捕虜の男女をそれぞれ1,000名ずつ精選し、部隊に組み入れた。ハンティ族とマンシ族についてはケイトの傘下に組み入れ、ヤサク「税金」をそれぞれ一年間に黒貂5,000枚を要求した。今年の分一万枚は強制的に取り立てた。バシキール人の首長イルガム (Ilgam)の妻エルヴィラ (Elvira)18歳は人質にした。セレナ28歳と一緒にアドリアンに送った。
テムジンとミルドレッドは東に向かい、ジェルメとケイトは北へ向かうことに決めた。
1364年2月8日木曜日午前5時:チュメニ
テムジンとミルドレッドはアドリアンからの急使によって朝早く起こされた。
直ちに北元の大都に向かえ。大元帝国は軍閥の反乱と紅巾賊によって滅ぼされ、亡命政権の北元も風前の灯である。ケイマンとセレナを向かわせたが、どうも心もとない。
ミルドレッドに全権を委任する。準備もあるだろうが、一年後にはカラコルムに到着するようにしてくれ。アドリアンは金塊100キログラムと2,700名の騎馬兵士及び3,000名の兵隊用に一年分の食料を送ってきた。
1364年2月10日金曜日午前7時、モンゴルの末裔である若きミルドレッドとテムジンは、3,000名の勇敢な騎馬戦士と共にヴァシュガン平原へと向かった。彼らの目的は、狩猟、薬草の採集、そして泥炭の発掘と乾燥であった。この冒険は3ヶ月間続く予定であり、期間中に様々な出来事が彼らを待っていた。
出発早々、ミルドレッドとテムジンが率いる一行は、ヴァシュガン平原の美しさに魅了された。広大な草原には、野生動物が豊富に生息しており、彼らは狩りを楽しむことができた。狩猟の成果も上々で、アンテロープや野ウサギ、そして野鳥などが獲得された。
また、ヴァシュガン平原には多くの薬草が自生していた。ミルドレッドたちは、その中でも特に効能が高いとされるギンコウ(銀杏)、カレドニアンシスル(キバナノコギリソウ)、アルテミシア(ヨモギ)、タンポポ、そしてカモミールなどを採集した。これらの薬草は、様々な病気や怪我の治療に役立てられた。
泥炭の発掘にも成功し、彼らはその乾燥に励んだ。泥炭は乾燥させることで、燃料として用いられるため、ミルドレッドたちの冒険には欠かせない資源であった。
しかし、この冒険は困難も伴った。彼らは突如現れた猛烈な嵐に遭遇し、一時は避難を余儀なくされた。さらに、ヴァシュガン平原には敵対する一団がおり、彼らと度々衝突した。しかし、ミルドレッドとテムジンの指導力、そして3,000名の騎馬戦士の勇気により、彼らは敵を撃退し、平原を平和に守り抜くことができた。
☆アドリアンの本営
1364年7月14日日曜日昼12時……夏営地イマキヤ
イヌワシ狩人たち27名及び兄弟・従兄弟従姉妹たちがチュメニから帰って来た。全員イヌワシと猟犬を伴い、沢山の獲物をらくだに乗せてきた。全員に大金貨を10枚ずつ与えて労をねぎらった。
ミルドレッドたちが人質として送ってきたセルクプ族長の妻セレナ28歳とバシキール人のハンの妻エルヴィラ (Elvira)18歳のふたりは大変美しくまた気立ても良かったので、アドリアンは同母の次弟ケイマン15歳と3弟アルファード14歳の妻とした。ケイマンがセレナを娶り、アルファードがエルヴィラを娶り、それぞれ1,000名の部下を付けて独り立ちさせた。
ケイマンたちには、金のインゴット1,000枚を与え、北緯50度ラインにある古いシルクロードを通って元の大都へ向かわせた。アルファードたちにも金のインゴット1,000枚を与え、サマルカンド、ブハラ以東の探索を命じた。
イヌワシ狩人たちがアドリアンにイヌワシの若いメスを一匹と大きな白い犬をくれた。イヌワシの世話はラドミラのお母さんラガドに任せた。白い大型犬だけ連れて行くことにした。この白犬を白牙と名付けた。色が白くて牙が大きいからである。
イヌワシ狩人たちの騎馬に立派な馬具を新しく付けた。弓だけが弩のままである。アドリアンは有名なトルコ弓……注①を使おうと考えた。ただ製作するのに時間がかかるので何処かで購入せねばならぬ。アドリアンはベルケサライにならあるかも知れないと考えた。無くても毛皮やコークスを売って儲ければ良い。アドリアンは全部隊総出でベルケサライへ向かった。
ジョチ・ウルス配置図
講談社現代新書「モンゴル帝国の興亡上」杉山正明著。P86
8月11日日曜日午前9時……ベルケサライの市場
幸いトルコ弓は売っていた。バカ高い値段だ。一張に付き大金貨1枚もする。大金貨4000枚支払って4,000張り購入した。
トルコ弓は来月にならないと入荷しない。コークスを100トン売った。小金貨50万枚つまり大金貨5万枚で売れた。毛皮は売値が安くここでは売らなかった。
小麦、ライ麦……黒パンの材料……やテンサイ、馬鈴薯、牧草、大麦、えん麦、塩などを大量に購入して大金貨1万枚支払った。
珍しい馬が目についた。大柄な馬で如何にも敏捷そうな黒馬だ。アドリアンは気に入って購入することにした。なんと大金貨100枚もする。思い切って購入し、天翔と名付けた。
10歳~15歳までの男女の各種奴隷も購入した。技術力のある奴隷は小金貨5枚必要だ。選りすぐりの者ばかり男5,000名、女5,000名購入した。小金貨3万枚支払った。
木材を50年乾燥した物を4万張り分大金貨4,000枚費やして購入した。弓職人を10名雇用した。鍛冶屋、農機具、武器製作の技術者及び交易商人をそれぞれ10名合計40名雇用した。
昼から格闘技大会があるようだ。
8月11日日曜日午後1時……ベルケサライの広場
アドリアンとカサル及びカチウンがそれぞれ騎馬戦、騎馬弓射撃、格闘技に参加した。3人とも他を圧倒して優勝した。サライのハンであるムラドに表彰され面目を施した。ムラドからは3人にペルシャ風の反った佩刀を一振りずつ与えられた。アドリアンはジョチ・ウルスにおける交易商人の許可を与えられた。
影の支配者ママイ29歳の妻トゥルンベク・カナム25歳の知遇を得た。ママイはアドリアンを利用したいようだったが婉曲に断った。トゥルンベクはベルディベク・ハンの娘である。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
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注①……トルコ弓
トルコ弓は主に松などの針葉樹をベースに、水牛の角、アキレス腱の膠を張り合わせて強度を増す。各パーツの貼り合わせや補強には魚の浮き袋の膠を接着剤として使う。
この植物性素材と動物性素材の組み合わせがコンパクトながら他に類を見ない威力、射程距離を生み出している。600mの射程距離は非常に魅力があるが時間がかかる。制作時は伐採した木材を50年乾燥させ、2年かけて弓に仕上げる。ひとつの弓ができるまでに2世代の弓職人が必要になる。こんなに時間がかかっては実用にならない。
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