異世界転生〜パーティ参加

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異世界転生〜パーティ参加

 社畜は、生まれ変わっても社畜なんだと痛感した。 「教授〜、この書類はどこ置けばいいですかぁ〜?」  本と紙で散らかりまくった教授の執務室。空間の許す限りに並べられた本棚。  俺は小さくなってしまった体に不釣り合いな量の本やら紙やらを両手で抱え、作業机に向かう教授に尋ねた。  教授が机から顔を上げると、その顔よりも格段に大きい丸眼鏡がずり落ちる。彼は、眼鏡を掛け直しながら、 「それはー……、Aの棚の三段目で」 「はぁい」  指示された棚へ方向転換。  この世界に転生して、どれくらい経っただろう。  アラサーで働き盛りだった俺が転生したきっかけは交通事故。繁忙期で疲れ果て、判断能力が鈍ったまま赤信号を横断した結果、信号を厳守するトラックに撥ねられたのだった。  そして目が覚めると、魔法蔓延る異世界だった。  高身長と皆に羨ましがられた体は縮み、十六歳ぐらいの女の子みたいな男の子に変わり果てた。若くなったのはラッキーだと、素直に喜んだが。  自分の状況を確認して回った末、俺は魔法学校に勤める教授の助手として生まれ変わったことが分かった。教授と共に、学校に住み込みで休みなく働く職業のようだ。  教職って世界が変われどブラックなんだなぁ、と他人事のように思った。  休日がないという点はブラックだったが、教授は優しい人柄だし、仕事さえすれば好きな時間に休憩が取れるし、衣食住は学校がサポートしてくれる、慣れてしまえば緩くて快適な職場だった。  なんだかんだ充実した日々。強いて不満を言うなら、身長が低いくらいだ。  今日もいつも通り、助手として教授の身の回りの雑務をこなしていると、 「あっ!」  背後から教授のヤバそうな声が上がった。 「どうしたんですか?」  短い足で、てちてちと歩み寄る。  一枚の手紙を握りしめる教授が、ワナワナと震えていた。 「魔王討伐パーティに参加するよう、国から指定されちゃった……」  この世界には、魔王がいる。  正確には、魔王の封印が何者かによって解かれ、最近目覚めたらしい。  魔王が目覚めた結果、世界中のあちらこちらに魔物が散乱し、戦闘能力のない人々に危害を与えるようになった。  残念ながら、俺の戦闘能力は皆無だ。魔法学校に勤めて助手までしているのに、魔法も使えない。仕事をこなす中で呪文や原理はある程度理解したが、この小さな体は、いわゆるMPを持ち合わせていないようだ。とはいえ、魔法学校は在籍する教授たちの知恵と力によって、強力な結界が張られているため、安全に暮らしているが。 「そうなんですかぁ、頑張ってくださいね」  俺は営業スマイルを教授に向ける。どうせ教授がいるかいないかは、仕事量にあまり関係ない。このきったない部屋を掃除するいい機会でもある。  そんな俺の悠長な教授不在計画とは裏腹に、教授は涙目になって縋ってきた。 「一緒に来てよ!」 「え、なんでですか」 「一人じゃ不安だから!」  俺は知っている。この人がめちゃくちゃ強いことを。  過去、学校に爆破予告が出されたことがあったが、教授が魔法を駆使して犯人を特定、確保までものの十分で終わらせたと聞いている。  魔法学校の教授って、つまり大学教授みたいなものだと俺は認識している。魔法に関する夥しい数の知識が、異常発生したクラゲのように脳内を漂っているに違いない。 「お願い! 来週に休み作るから!」  教授が必死に両手を合わせる。教授は確かに強いけど、人としては放って置けない人物だということも知っている。整理整頓ができないとか。  休み……は、ちょっと欲しいし。 「分かりましたよ。ただし、絶対俺のこと守ってくださいね」 「もちろん!」
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