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わたしは小会議室を出て一年一組に戻った。クラス内に生徒はほとんど残っていなかった。
ただひとり、ハルちゃんを除いて。
「マミちゃんおかえり。先生の用事って何だったの?」
ハルちゃんは読んでいた本から顔を上げて、自分の席に向かうわたしを見た。
「学級委員についてだよ」
わたしはほんの少しの真実を伝えた。
「そっかあ。ぼくは美化委員だから、やること特にないんだよね。マミちゃんは大変だね」
「そうでもないよ。もう慣れっこだもん」
「マミちゃんは小学校のときからクラス委員やってたもんね。児童会も。ねえねえ、三年生になったら生徒会に入るの?」
「どうかな。わたし以外にも向いている人がいると思うよ」
「もしマミちゃんが立候補したら、ぼくが応援するね」
「たぶんしないと思うけど、そのときはお願いね」
わたしは帰り支度をしながら、ハルちゃんの話をなんとなく聞いていた。憂鬱だ。ハルちゃんがわたしを待っていたということは、次に来るセリフはわかりきっている。
「じゃあ、一緒に帰ろう!」
「そんなに毎日わたしを待たなくてもいいのに」
「だってマミちゃん忙しいから、帰りくらい一緒にいたいんだもん」
夜凪中学校の生徒は必ず部活に所属しなければならないが、わたしは特別入りたい部活がなかったため、部員数が少ないパソコン部で幽霊部員と化している。ハルちゃんも同様だ。
ハルちゃんはズボンのポケットに両手を入れて、もじもじとわたしを見てくる。
「ぼく、マミちゃんともっと仲良くなりたい」
そういうなよなよした態度が高木たちの標的になった一因であると、ハルちゃんは気づかないのだろうか。
大量殺人鬼になるといった戯言よりも、わたしはむしろハルちゃんの言動が高木たちを苛つかせたのだと思う。おくびにも出せないが。
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