第一章 ダンゴムシの墓

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「……先生もハルちゃんが高木たちからいじめの標的にされていると知っている。だけどハルちゃんから言ってくれないと、学校側として何も動けないんだって。だからハルちゃん、わたしとしては、ありのまますべてを先生に伝えてほしい。それがハルちゃんのためになると思うから」 「ぼくがどうして何もしないか、マミちゃんにわかる?」  ハルちゃんはベンチに教材が入ったリュックサックを置き、公園を散策し始める。ハルちゃんは昔から突拍子もなく行動することが多かった。  わたしも同様に荷物を置き、ハルちゃんの後を追う。ハルちゃんは雑草が生い茂る公園の隅に向かって歩き出した。その背中からはハルちゃんが怒っているのか悲しんでいるのか読み取れない。 「ねえ、マミちゃん。わかるかな?」 「え、そんなのわからないよ……。わたしがハルちゃんの立場だったら真っ先に誰かに相談すると思う」 「マミちゃんはきっと、今まで誰かにいじめられた経験がないんだよね。ぼくは慣れっこだから今回もスルーしようと思ってたんだけど、マミちゃんが間に入ってくれるなら、ぼくも歩みよろうかなって」  違うよ、ハルちゃん。わたしだって同じだよ、とわたしは口に出そうとして、やめた。  十年近く前の話を持ち出したところで、ハルちゃんが味わっている苦痛を共感できやしないからだ。 「教えてあげるよ、マミちゃん。ぼくは怖がりだから、高木たちからの報復が恐ろしいんだ。先生に話して、それがバレたら、いじめがエスカレートする。誰も得しない。ぼくだけがさらに苦しむ。だから嫌なんだ」 「先生が高木たちにチクると思うの?」 「チクらなくても、いじめる側ってのは察するんだよ。誰かが動いたなって。これまでもずっとそうだった。誰もぼくを助けてくれなかった」 「……本当は助けてほしいんじゃないの?」 「ぼくが?」
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