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ハルちゃんが先生のことをそういう意味で好きだってことは衝撃だったが、いじめ問題について前向きに考えてくれたことは、わたしにとっても一歩前進だ。
「そうだ、ハルちゃん。学習日記といえば――」
「いた! 見て見てマミちゃん!」
わたしの質問と同時にハルちゃんがバネ仕掛けのように振り返り、満面の笑みを見せた。わたしに向かって両手を差し出し、探し物の正体を見せる。丸まったままのダンゴムシだ。
「久しぶりに探してみたけど、やっぱりまだいるんだね。さっきマミちゃんとダンゴムシの話したから探したくなってさあ。やっぱりコロコロしてて可愛いね」
「う、うん……」
わたしは嫌な予感に襲われた。わたしの苦手なハルちゃんが目の前にいる。姿かたちは変わっていないのに、いつものハルちゃんとは違う、わたしの知らないハルちゃんがそこにいた。
「……ねえ、ハルちゃん。ダンゴムシどうするの。逃がしてあげようよ」
「どうして? せっかく見つけたのに、もったいないじゃん」
嫌でもわたしの記憶は四月六日の自己紹介の時間へさかのぼる。
『みなさんこんにちは。ぼくのことはハルちゃんと呼んでください。年齢は十二歳。ぼくは歴史をぬりかえる大量殺人鬼になります。一年間よろしくお願いします』
あのときは冗談だと思った言葉に重みが出てくる。
「ハルちゃん。ダンゴムシ、放してあげよう?」
「マミちゃん、そのへんにいい感じの石ないかな?」
「石?」
「うん。ゲンコツくらいの大きさの石」
ハルちゃんが欲する石はわたしの近くにあった。しかしわたしはその石に手を伸ばせずにいた。
しびれを切らしたハルちゃんが、ダンゴムシ片手に石に向かって手を伸ばす。
「わ、わたし先に帰るね。今日お母さん早く帰ってくるの忘れてた」
「そうなんだ。マミちゃんママいつも忙しいもんね。今日も一緒に帰ってくれてありがとう。また明日ね」
「うん、明日ね」
わたしはハルちゃんを振り返ることなくベンチに向かって駆けた。
背後では何度も石を打ちつける音が聞こえた。
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