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◇
「マミちゃん、ありがとう。来てくれたんだね!」
わたしが住む夜凪町で連続殺人事件が起こる半年ほど前、わたしは何度かハルちゃんの家を訪ねた。学校を休んだ生徒に、その日の配布物をまとめた茶封筒を届けるためだ。
ハルちゃんは、とある事情で最近学校を休みがちになっている。わたしがハルちゃんの家に届ける係になったのは、学級委員だということと、家が近所だからだということらしい。
「今日の宿題と板書のコピー。それから連絡帳と学習日記も入ってる」
「コピーってマミちゃんのノートをコピーしてくれたの?」
「先生に頼まれたから」
「そっかあ……先生はぼくのこと、何か言ってた?」
「別に。たぶん学習日記に書いてあるんじゃない?」
「それもそうだね。読むの楽しみ。どんな返事が書いてあるんだろう」
わたしから茶封筒を受け取ると、ハルちゃんは玄関先だというのに、うきうきと中身をあらためた。
「あれ? 学習日記は?」
ハルちゃんの手がスッと止まる。
「ぼくが書いた日記、先生読んでくれなかったの?」
学習日記というものは、わたしたちが通う夜凪中学校独特の文化で、端的にいうと生徒と先生間で行われる交換日記だ。
学習日記は毎日提出する必要があるため、各生徒に二冊配布されている。当日出した日記を一日で先生がチェックして返事を書くことなど無理な話だからだろう。
クラスの大半が嫌う学習日記という宿題を、ハルちゃんは何よりも楽しみにしていた。
「ねえねえ、マミちゃん。先生はぼくのこと嫌いになっちゃったのかな……?」
「そんなことないよ、ハルちゃん。今は期末テスト週間で先生も忙しいから、昨日の分も見れなかったんだって。だからハルちゃんだけじゃなくて、みんな返されてないんだよ」
「そうなの! だったらよかった」
「じゃあ、わたしそろそろ帰るね。体調よくなるといいね」
「大丈夫。薬飲めば楽になるんだ」
ハルちゃんはニカリと笑ったが、身体の不調を隠しているのだと、わたしはすぐわかった。
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