第一章 ダンゴムシの墓

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「そうだマミちゃん! もうひとつ……」 「どうしたの、ハルちゃん?」  わたしは踵をかえしてハルちゃんを見た。ハルちゃんは茶封筒の一角を指して言った。 「マミちゃんだけだよ、いつもぼくにメッセージ書いてくれるの。ぼく本当に嬉しいんだ」 「……幼馴染だから、当然でしょ」  ハルちゃんに見送られて、わたしは数メートル先のマンションへ帰る。エレベーターに乗りこみ三階で降りると、自室はエレベーターホールのすぐ近くだ。 「ただいまー」  誰もいない部屋に向かって、わたしは声をかける。両親は共働きでひとりっ子のわたしは小さい頃から防犯のために『ただいま』を言う習慣がついていた。  梅雨が明けきらないジメジメした湿気が不快で、わたしはベランダに出て、少しでも外の空気を室内に通す。風の流れとともにセーラー服のリボンが揺れる。そろそろ夏服に替えなきゃならない。 「……そうか、テスト終わったら夏休みなんだ」  わたしはハルちゃんの家を見下ろしながら、ひとりごちた。 『マミちゃんだけだよ、いつもぼくにメッセージ書いてくれるの。ぼく本当に嬉しいんだ』  屈託のないハルちゃんの顔が脳裏をよぎる。  夜凪中学校独特の文化のひとつである欠席者への茶封筒。本来この茶封筒には、寄せ書きのようにクラスメイトからのメッセージがびっしりと書かれるのが普通だ。 『早く元気になってね』 『みんな待ってるからね』 『◯◯さんがいないと寂しいよ』  うわべだけの言葉であっても、書いてあるのとないのとでは天と地ほどの差がある。  ハルちゃんへの茶封筒に、わたしだけがメッセージを書く理由は明白だ。  ハルちゃんはクラスメイトからいじめを受けているのだ。
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