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「そうだマミちゃん! もうひとつ……」
「どうしたの、ハルちゃん?」
わたしは踵をかえしてハルちゃんを見た。ハルちゃんは茶封筒の一角を指して言った。
「マミちゃんだけだよ、いつもぼくにメッセージ書いてくれるの。ぼく本当に嬉しいんだ」
「……幼馴染だから、当然でしょ」
ハルちゃんに見送られて、わたしは数メートル先のマンションへ帰る。エレベーターに乗りこみ三階で降りると、自室はエレベーターホールのすぐ近くだ。
「ただいまー」
誰もいない部屋に向かって、わたしは声をかける。両親は共働きでひとりっ子のわたしは小さい頃から防犯のために『ただいま』を言う習慣がついていた。
梅雨が明けきらないジメジメした湿気が不快で、わたしはベランダに出て、少しでも外の空気を室内に通す。風の流れとともにセーラー服のリボンが揺れる。そろそろ夏服に替えなきゃならない。
「……そうか、テスト終わったら夏休みなんだ」
わたしはハルちゃんの家を見下ろしながら、ひとりごちた。
『マミちゃんだけだよ、いつもぼくにメッセージ書いてくれるの。ぼく本当に嬉しいんだ』
屈託のないハルちゃんの顔が脳裏をよぎる。
夜凪中学校独特の文化のひとつである欠席者への茶封筒。本来この茶封筒には、寄せ書きのようにクラスメイトからのメッセージがびっしりと書かれるのが普通だ。
『早く元気になってね』
『みんな待ってるからね』
『◯◯さんがいないと寂しいよ』
うわべだけの言葉であっても、書いてあるのとないのとでは天と地ほどの差がある。
ハルちゃんへの茶封筒に、わたしだけがメッセージを書く理由は明白だ。
ハルちゃんはクラスメイトからいじめを受けているのだ。
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