第一章 ダンゴムシの墓

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「斉藤(さいとう)、ちょっといいか?」  ハルちゃんのトンデモ発言から数日後、学級委員になったわたしに、先生が声をかけた。 「なんでしょうか」 「いやあ、その……教室じゃあ話しづらいから、職員室でもいいか」  先生の声色と視線から、ハルちゃんのことについてだと察した。今は帰りのホームルームが終わり、生徒たちが各々の用事のために帰り支度をしている。  当のハルちゃんは自分の席に座り、ニコニコとわたしを見ている。ハルちゃんの周りには誰もいない。  わたしはハルちゃんを無視して、先生と共に職員室へ向かった。  職員室はなんだか苦手だ。他人の家に来たみたいで落ち着かない。室内に入るまでのお決まりの作法を済ませて、わたしは先生の席に向かおうとしたが、前を歩く先生がはたと動きを止める。 「どうかしましたか?」 「参ったなあ」  先生が歳のわりに老けたように頭をかく。見ると、先生の席の周りに他の先生が何人か集まっている。  先生は夜凪中学校の先生の中でもかなり若い。派手な女子からはむーたんと多少なめられているが、好かれているようだ。 「斉藤、隣の小会議室でもいいかな」 「わたしはどこでも」 「助かるよ。ありがとう。すぐ行くから部屋の中で待っててくれ」 「はい」  わたしは先生の言葉とおりに職員室を出て、左隣の小会議室に入る。ここは初めて入るが、会議室とは名ばかりの物置き部屋になっていた。会議用の長机が二脚、折り畳んだパイプ椅子が六脚、壁に立てかけられている。  わたしはパイプ椅子を二脚広げ、先生と自分が座る場所を確保した。
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