第一章 ダンゴムシの墓

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「斉藤。君の率直な意見を聞きたい」  先生はわたしの前に座り、一冊のノートを差し出した。ハルちゃんの学習日記だ。先生はページをめくり、ある箇所で手を止めて、わたしに向かってノートを開く。 「……先生。他の生徒に学習日記を見せるのはプライバシーに関わるんじゃないですか?」 「俺だってそんなことわかってるさ。承知の上で君に見せたんだ。斉藤。君ならわかるだろう? 俺の言いたいことが」 「先生。これはただの日記ですよ。ハルちゃんが書いた、ただの日記です」 「ああ、ただの日記だ。でもな、この内容を延々と書かれたら、俺はどうあいつと接すればいいんだ」 「知りませんよ。生徒に聞かないでください」 「他の先生方に見せられる内容じゃないだろう……」  先生が問題視したページにはこう書かれていた。 『四月十四日(木)  四という数字が好きだ。死を連想させる。ぼくが日本人でよかったと思うことだ。し=四=死。ぼくはこれから何人の命を奪えるだろう。  子供のぼくにできることは限られているけど、あの有名な少年Aだって少なくともふたりは殺せたんだ。ぼくだってできる。  早くぼくという人間を先生に知ってほしいなあ』  文中の【先生】には赤ペンで丁寧に波線が引かれている。わたしは先生が求めたとおり、率直な意見を返す。
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