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殿方達が出ていくと、ふぅっと大きく王妃が息をついた。
「おつかれでございましょう。お座りになりませんか?」
静かに声をかけ、窓際のソファを指すと、彼女は「嬉しいわ」と笑顔でうなずいた。
ソファに誘い、互いに腰掛けると、見計らったかのように、あらかじめ準備をしていたらしい色とりどりのお菓子が載ったケーキスタンドが運ばれてきた。
流石ユーリーンである。
それを見て彼女が驚きに目を見開くのがわかった。
あぁ良かった気に入っていただけたようだ。
「道中慣れない外国のお料理にお疲れでしたでしょう?オルレアの菓子を用意させましたの、と言っても私が習ったことのある簡単な家庭菓子で申し訳ありませんが」
恥入りながらもこちらの意図を伝えると、
「いぃえ、馴染み深くて嬉しいわ」と、ブルーの瞳を細めている。
小枝のように細くてしなやかな指が、その中の菓子をひとつ取る。
「まぁ、本当にあちらの家庭の味だわ。アリシア様はお料理も学ばれたの?」
「どうぞ気軽にアーシャとお呼びください。
わたしが滞在していた宮のシェフが楽しい人で、我が国の料理に興味が強かったので、時間のある時などはよく厨房に招き入れていただいていたので、そこで教えていただいておりましたの。」
本当は、病弱な兄が彼の国の食事に慣れる事ができなかったため、彼好みの食事を教えていて、出入りするようになったのだが、まぁそれは言わなくていいだろう。
「こちらの宮のシェフにもレシピは伝えてますから、ご希望すればいつでもお召し上がりいただけますわ」
「まぁそれは嬉しい。
そうであったなら食べ納めと思ってたくさん食べてこなくても良かったのねぇ」
ふふと冗談を言って笑う姿をみてホッとする。
良かった、少しはリラックスしてもらえただろう。
折良く、紅茶が運ばれてくると、妃殿下は少し香りを楽しんでからコクリと喉を鳴らす
「まぁ美味しい。トラネストはお茶が有名ですがこんな香りのお茶もありますのね?」
その反応が可愛らしくて、つい私はふふと笑ってしまう。
「茶葉に乾燥させたフルーツを入れたものです。
今、貴族の若い令嬢の中で流行っているのです」
叔母は流行には敏感だったから、完全に受け売りだ。
「通常の物がお好みでしたら、そちらもご用意は有りますし、もし祖国の物をと申されるので有れば、そちらもご用意がございますから、なんなりとお申し付けくださいませ」
茶の好みは人それぞれで、御令嬢の中には随分とうるさい人もいる。
「まぁそんなものも?」
「殿下がご準備くださいました。
全て慣れない環境ですから、せめて口に入れるものくらいは慣れたものをと」
そう言うと、彼女は茶と私をわずかに見比べて
「殿下は、本当にお優しい方ですわね」
もう一度コクリと喉を鳴らして飲むと、静かにカップをソーサーに戻す。
「はい、妃殿下のことを大切に思っておられます。ご準備も随分張り切っておられましたから」
精一杯歓迎しているのだと、意を伝えたかったのだけど
そうですか。
一瞬、彼女のその美しい顔が曇ったように見えたのを私は見逃さなかった。
しかしおや?っと思ったのは一瞬で、すぐ取り繕うように可憐な笑顔を取り戻していた。
「そんな殿下をお支えできる良い妃に私も頑張ってなれねばなりませんね」
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