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彼の金色の混ざった茶の瞳が、驚きの色を隠せない様子で私を見下ろしている。 そしてその瞳に囚われた私も、彼を見上げたまま言葉を発せないでいた。 そんな、まさか。 なぜ彼が、、、。 鼓動が早くなり、長いスカートに隠れている膝が震えだす。 「なぜこんな所に」 先に言葉を発したのは彼で、私は慌てて息を吸う。 「妃殿下の、お付きのお仕事で」 なんとか口を出たのはその二言だった。 「あぁ、、、だが、たしかノードルフ侯爵の親戚の方と」 「ノードルフ侯爵夫人が私の叔母なのよ。エルダ叔母様を覚えてる?」 私たちが幼い頃、早くに夫を亡くした叔母は、父が留守にしている間よく我が家に滞在していたから、幼馴染の彼も何度か会ったことがあるはずだ。 「あぁ、なるほど。」 すぐにピンと来たらしい彼が、理解したように肯く。 胸の奥がきゅっと苦しい。あの懐かしい日々を彼が覚えてくれていた事が嬉しかった。 「そう言えば、戦争で素晴らしい働きをされたと聞いたわ、今その格好をしてると言うことは、、、」 「あぁ、今は当時の直属の指揮官であられた王太子殿下の専任騎士なんだ」 少し照れ臭そうに笑うその顔は、記憶の中にある笑顔そのもので、胸の奥がまた苦しく絞まる。 もう随分前に諦めたはずなのに、姿を見てしまうと、どうしても彼を眩しく感じた。 だめよ。忘れたはずでしょう? どこからか、別の私が呼びかけている。 貴方にはもう資格がないのよ? そうだ、彼にはもう。 そう考えると、すっと何かひんやりしたものが私の中心を通った気がして、動転していた頭が冷静さを取り戻す。 ふうっと息を吐いて、彼を見上げると口角を上げて貴族の令嬢然とした笑みを作る。 「そう、ならきっと色々な所でお世話になるのね。よろしくお願いしますわね、騎士様」 見上げた彼は、一瞬息を飲んで、どこか傷ついたようにその形のいい眉を下げた。しかし、すぐに思い直したように胸に手を当て、軽く腰を曲げる。 「こちらこそレディ。よろしくお願いいたします。」 その板についた騎士の振る舞いに、目を奪われかけて、慌てて私は視線をそらせる。 「そろそろ部屋に戻らないと」 あたかも大事な事でも忘れていたようにつぶやいて「失礼いたします」とスカートの端を持ち上げて彼に一礼する。 胸のざわめきがひどくて、あまり長く彼といるのは良くないと本能が告げていた。 「部屋まで送るよ」 しかし彼はそんな私を解放してはくれない。 私の先に立とうとするのを、私は首を振って断る。 「殿下直属の騎士様のお手を煩わせるなんて恐れ多いわ、一人で大丈夫よ」 部屋はすぐそこだからと付け加えると、いちどニコリと彼に笑いかけて、そのまま踵を返し一気に庭を戻る。 背後から戸惑ったように彼が声をかけようとするのを無視して、私は整備された芝をしっかり踏み締め建物に入ると、わき目も降らず、少し前に意気揚々と出てきた部屋に戻った。 バタンと多少強引に扉を閉じると、その場にずるずると崩れ落ちる。 幸い部屋にリラの姿はない。 「なんてこと」 ポツリとつぶやいて頭を抱える。 彼がどこかの戦線でめざましい活躍をした事は、漏れ聞いてはいた。 それがまさか王太子殿下の騎士になっていたなんて。 「皮肉なものね」 神様はどこまで私を責めるつもりなのだろうか。
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