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そのまま馬車は、どこか狭い路地を時々曲がりながらすすんで、そしてある時突然止まった。
「降りろ!」
そうトランに言われて、いやだと抵抗したが、すぐにブレイデンがやってきて引き摺り出されてしまった。
そのままブレイデンに拘束された私は、そこに止まっていたもう一台の簡素な馬車に押し込まれ、先程と同じようにトランと睨み合いながら馬車に揺られた。
窓の外を見ても、すでにそこは知らない景色で、今自分がどこにいるのかすらわからなかった。
助けが来るとは到底思えない。
馬車はしばらく走ると、何の変哲もない普通の民家の前で止まった。
「降りるぞ」
そう言われて、無言で彼を睨みつけたが、またしてもブレイデンの手で容易く降ろされると、抵抗虚しくその質素な家に引きずりいれられた
そうして手足を縛られた私は、ソファに座るトランの前に座らされた
まるで、あの地獄の日々のように。
「まだそんな目ぇしてんのか?思い出すだろう?随分と楽しんだじゃねぇか」
「そんな覚えはないわ」
「そうか?その割にお前、うまそうに俺のをしゃぶってたぜ」
「っ、、、そうしないと、貴方は何をするか分からなかったから言いなりになっただけよ」
「そうだな、、、まぁ今思えばあの時の俺は立派だったよ。なにせあれだけで我慢してたんだからよ」
そう言って彼は足を組み直す。
「母さんと約束だったんだけどな、いつかタイミングが来たらお前を好きにしていいって。そのためのお預けだったから楽しめたのに、あと少しってトコでお前あのノードルフのジジイとババアに言いやがって」
ガンと、彼は脇にあったテーブルを、その組んだ脚で蹴り上げた。
「あんなことになるんだったら、我慢なんかせずに抱いてりゃ良かったと、俺が何度後悔したと思う?」
そう言って顔を近づけてくる。
「まさかそのために、王太子宮に」
「あぁあれはまいったぜ、本当に殿下が出てくるんだもん。王太子妃サマのお付きが兄貴のくわえ込んでたなんて噂になったらお前も困るだろうなぁってちょっと脅してやればお前の事だからあっさり落ちると思ったのに、肝心のお前に会えないんじゃぁな。しかも知らない間に結婚までしてウチから籍を抜きやがって。こざかしすぎてイライラしたぜ」
そして彼はフンと息を吐くと、私の顎の下に足を入れて持ち上げる。
「しかも相手はストラッド家の3男だと?折角婚約を握りつぶしたのにそれすらも議会に告げ口しやがって!おかげで俺はミシェルと結婚する羽目になって、うちは今テルドールに乗っ取られてる」
面白くねぇと、呟いて彼は私の顔をまじまじと眺める。
「あんな頭が良さそうなスカした女は好みじゃねぇんだよ。ヤるならやっぱりお前みたいな美人じゃねぇとな!」
「なにを、、言ってるの?」
後ずさろうとするも、うまく動くことができず、代わりに肩を押されて、呆気なく押し倒されてしまう。
そこに、椅子から立ち上がったトランが悠然と跨る。
「そう、その顔だ。最高だなアーシャ。キレイだな。いっぱい可愛がってやるからな」
「やめて!」
身体を捩って逃げようとするが、腰にトランの体重が乗り身動きが取れない。
このままでは、この男の思い通りになってしまう。
ブラッド
脳裏に浮かぶのは夫の顔だった。最後に会った時の心配そうな顔
貴方のいう事を聞いておけばよかった。
ごめんなさい。
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