第一章 one-step

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第十話 後日談 病院にて〈静香〉 病院に入ると、消毒液の匂いが漂っていた。 エレベーターを使って上の階まで上がり、部屋の扉を開ける。 一人部屋のそこに晶くんがいた。 横の丸椅子には湊斗くんが座っている。 「手術大丈夫だった?体調は?」 晶くんに声をかければ、どこか疲れたような顔で「大丈夫」と言われた。 絶対に大丈夫じゃない。 「晶くん、大丈夫なの?全然元気なさそうだけど……」 「しばらく安静にだってさ。しっかりしろよ、お前」 湊斗くんが晶くんの代わりにそうこたえてくれる。 顔は心配そうな一方で声には呆れが混じっていた。 「俺もわかったのは前日なんだよ。琉華さんが付き添って来てくれてさ」 琉華さんというのは事務所の先輩である俳優の霧宮琉華さんのことだろう。 四十代って聞いてるけど、どう見たって二十代。 カッコイイお兄さんみたいな感じの人だ。 「あの人、本当に鈴華さんと似てるよな」 「それは思う。てか、鈴華さんが琉華さんに似てるのか」 晶くんと湊斗くんが話してる間に持ってきていたものを取り出す。 それを見て晶くんが目を輝かせた。 「加田屋の新作ケーキ!ありがとな、静香」 「加田屋って、最近話題になってるケーキ屋だよな」 「うん。晶くんが店主の人と知り合いでケーキ預かってきたの」 淡いピンク色のレースがデザインされている箱を開ければ、洋梨のケーキが目に入る。 ふわふわのスポンジにたっぷりのクリーム、上には砂糖で甘く煮た洋梨と蝶をかたどったホワイトチョコ。 「いっただっきまーす」 晶くんがパクパクと食べ出す。 湊斗くんは呆れた目で晶くんを見た。 「お前は元気なんだかそうじゃないのかわかんないヤツだよな……」 その言葉に苦笑していれば、晶くんのサイドテーブルに紙切れのような物が置いてあるのに気づいた。 よく見れば『ポッピングランド』の文字と共にキャラクターが印刷されているチケットだった。 ポッピングランドは国内最大級の遊園地。おとぎ話をモチーフにしていて日本の観光地のなかでも一、二を争う人気を誇っている。 「ああ、それ?なんかもらったんだよ。五人までのグループチケット」 「なんかもらったって。そういえば、最近行ってないなぁ」 「俺は一回行ったような気がしないでもないけど。その程度だな」 しばらく雑談をしてから、話はライブのことになった。 「あの時、静香が声かけてくれてよかった」 「俺も気が動転しててさ」 二人にそう言われてちょっと照れてしまう。 本当に咄嗟にやったことだったから私も慌ててたんだよね。 「それよりもその体調で歌って踊ってた晶くんにびっくりだよ」 「そのせいで余計な心配かけやがって」 湊斗くんの言葉に晶くんはピューッと口笛を吹く。 「でも、無事に終わってよかったね」 「それな」 「そうだな」 三人でクスクスと笑う。 いろいろあったけど、無事(?)に終わってよかった。 これからも頑張ろう!って思えたから。 「そーえば、なんか事務所あげてイベントみたいなのするって鈴華さんが言ってたな」 ふと、晶くんがそんなことを言い出す。 事務所をあげてのイベント? 初めてきいた。 湊斗くんは思い出したような顔になる。 「そうえばそんな話でてたな。鈴華さんが倉庫で前途多難……ってボヤいてたし」 「前途多難って何するの……?」 何か大変な予感がする。 私はそんな予感を感じつつも、せっかく少し改善されたこの性格でまた頑張ろうと思うのだった。
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