第一章 one-step

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第九話 力を合わせて2〈晶〉 ライブも終わりに差し掛かった頃。 俺の体力はもう限界だった。 あと一曲、最後だ。もうラストだ……! そう思った瞬間だった。 ガターン 大きな音とともに会場の電気が消えていく。 「は?」 俺は思わずつぶやいた。 その瞬間、客席から悲鳴があがる。 「きゃああああ!」 「停電!?」 「何かあったのかも!?」 「逃げないと!」 そんな声があちこちからきこえ、客席はさらに混乱していく。 痛っ……。 ヤバいかもしれない。 腹をおさえてしゃがみこめば、湊斗と静香が駆け寄って来た。 「晶!」 「晶くん!」 二人に支えられて立ち上がるが、そろそろ本当に限界だ。 その間も客席のパニックは広がっていく。 『機材故障のための停電です。速やかにお戻りください』 アナウンスが流れるものの、事態は一向に良くならない。 それどころか、立ち上がって逃げようとする人たちが出口で押し合いになっている。 ヤバい、いろいろな意味でどうしよう。 「湊斗、どうすれば……」 「おい、晶!お前は大丈夫なのかよ!?」 湊斗の声に顔を歪める。 「多少痛いけどどうにかなる」 「なんで言わなかったんだよ!」 俺は俯く。 湊斗は俺をじっと見ていた。 「お前たちに言ったらライブが何か変更になるかと思った。それを避けたかった……」 俺がそう言えば、今度は湊斗が俯く。 そんな俺たちを見て静香が力強くマイクを握ってしっかりとした口調で言った。 「晶くん、湊斗くん。それは後でだよね?今私たちはこの騒ぎをどうにかしなくちゃいけない。晶くん、自分で具合は判断して」 それだけ言うと、静香は客席のほうを向いて深呼吸をした。 『皆さん、落ち着いてください。先程の通り、これは機材トラブルです。すぐに元に戻るので、ゆっくりでいいですから席に戻ってください』 演じているアイドルの葉山静香そのものであるがその手は震えていた。 きっと、緊張している。 でも、その中で頑張っているのだろう。 静香はきっと着実にいい方に成長している。 その頑張りにこたえるようにお客さんたちが客席にゆっくりと戻っていく。 これは静香だけに任せる訳にはいかない。 俺は堪えるようにマイクに向かって声を出す。 『落ち着いてください!スタッフさんが今頑張ってくれてるんで、俺たちに協力お願いします!』 『不安に思う人たちもいるかもしれません。それでも、ここは安全です。客席にそのまま戻りましょう』 俺に続いて湊斗の声が響く。 客席に人が戻り、消えていた電気が少しずつついていく。 『これでラスト!皆で一緒に歌おう!』 俺が声を張りあげれば、たくさんの人たちから返事が返ってくる。 痛くても、フラフラとした足取りでも最後まで俺はやりきる! 『ラストの曲はone-step!』
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