第一章 one-step

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第二話 ダンスの練習〈静香〉 数日後。 私はダンススタジオにいた。 ライブの練習が開始し、今日はダンスだ。 私は運動音痴であまり運動は好きじゃないけど、ダンスだけは楽しくできる。 隣には晶くんと湊斗くんがいる。 「なぁ、今回の人って誰だっけ?」 「お前、そんなことも覚えてないのかよ」 晶くんが首を傾げていると、湊斗くんが呆れたような顔になった。 私たちの事務所では、時間のある先輩たちがたまに社長のところから派遣される。 それが今日なのだ。 私はためになるから結構好きだけど、晶くんは一部の先輩たちと仲が悪く、人によって気分が変わる。 「今日は、」 「おい、練習始めるぞ」 声がして扉の方を見れば、そこには長身で茶髪の男性が立っていた。 切れ長の目に端正な顔立ちをしているこの人、羽田将乃さんが今日の先生だ。 羽田さんは、大人気のアイドル俳優で私たちよりも七つ程年上のお兄さんみたいな人。 晶くんは羽田さんを見て、安堵の表情を浮かべた。 「将乃兄貴!あ〜、達也さんじゃなくて良かった」 「達也に伝えといてやろうか?」 「いえ、結構です」 羽田さんの言葉に晶くんが後退りながらこたえる。 晶くんが余計なことを言い、それを羽田さんがいじる。 いつもの調子の二人に思わず笑みがこぼれた。 「と、巫山戯るのはここまでにして始めるぞ」 「はい」 「ヘイ」 「は、はい!」 私たちがそれぞれ返事をし、練習が始まった。 羽田さんはお忙しいので一時間が精一杯らしく、申し訳ないと言っていたけど、むしろそんな時間をつくってくれてありがたい。 それに、来てくれる先輩方もそれぐらいの時間だ。 「今回のライブは今までやったことないこと、バク転とかもやるって鈴華が言ってたができるか?」 私は思わず視線をそらす。 運動音痴の私がバク転なんか出来るわけがない。側転も出来ないのに。 そんな私の横で晶くんが手を元気にあげている。 「はいはーい!俺出来ます!」 「晶は出来るだろうな。歌は下手だけどダンスできて運動神経がいいって連れてこられたんだからな」 「将乃兄貴!ヒドイ!」 泣き真似をする晶くんを無視し、羽田さんは湊斗くんを見る。 「湊斗は?」 「一応、出来ます」 サラッと言う湊斗くんを見て、だよねー! と心の中で叫ぶ。 やっぱり、出来ないの私だけ……。 「静香は基本のダンスを鍛えるか」 羽田さんもわかっているのかそこには触れないでくれる。 それもそれで悲しいけど。 「てことで、一曲目はーー」 アドバイスを貰いながらそうこう練習をしているうちに、気づけば一時間がたっていた。 「将乃、時間。次は達也と雑誌のインタビューね」 「鈴華。もうそんな時間か」 羽田さんを呼びに来たのか、鈴華さんがダンススタジオに入って来た。 まさか、鈴華さんは自分の担当していない人のスケジュールまで覚えているのだろうか。 当たり前のようにポンポンとスケジュールが出てくる鈴華さんに驚きつつ、羽田さんを見送る。 「じゃあ、俺は仕事に戻るけどお前らは頑張れよ」 「「「ありがとうございました」」」 三人で揃えてお礼を言えば、「お前ら仲良いな」と笑っていた。 仲が良いと言われたことはあまりない。 事務所の社長である桜崎さんとか先輩たちにはたまに言われるけど、テレビでは言われたことがない。 私はクールなキャラをつくってて、晶くんはそのまま、湊斗くんはもっと愛想がいい(湊斗くんが愛想悪いわけではないよ!?)キャラをつくっている。 そんな私たちはあんまり仲良し感がないのかもしれない。 「じゃあ、三人は練習再開してね。でも、晶はこれから番組の撮影があるからほどほどにね」 「どーも」 私たちは鈴華さんの言葉で練習を再開した。
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