第一章 one-step

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第五話 初めて出会った日〈湊斗〉 「湊斗くん、来てくれたんだね」 社長室。 俺は若くして社長をしている男性、桜崎さんと話していた。 周りでのゴタゴタがあってから踏み出せなかった一歩をようやく踏み出す決心がついた。 「はい。それで、話は」 「そのことなんだけど、新しく事務所に入所した二人とアイドルグループを組んでもらおうと思ってる」 アイドル。 歌は歌えるが、ダンスはやったことがない。 専門外だ。 そんな俺を察してか桜崎さんは穏やかに笑った。 「大丈夫。湊斗くんは運動神経もいいし、問題ないと思ってる。他のメンバーも今日事務所に来てるから、会ってくれるかい?」 「わかりました」 返事をしつつも、アイドルというものはどうも苦手だ。 兄がアイドルだった影響もあるが、いろいろ嫌な思い出が多い。 トントン ドアがノックされ、ドアの方に振り返る。 桜崎さんが「いいよ」と声をかければ、同い年くらいの男子と女子が入ってきた。 男子は外見からして自信に満ち溢れていそうで「失礼しまーす!」と声がデカい。 一方で女子は少し強気そうな顔立ちなのに雰囲気はどこかオドオドとしている。 男子は俺の前で仁王立ちになった。 「お前がもう一人のメンバー?」 「そうですけど」 「俺の名前は相川晶。よろしく」 はぁ。 いきなり自己紹介を始めた相川晶に握手で握った手をブンブンと振られる。 小学生か。 女子の方は相川の後ろからちょこんと顔を出している。 「初めまして、葉山静香です」 「音城湊斗です」 相川よりも葉山のテンションの方が落ち着く。 相川は初対面で普通に友達テンションで来るんだが。 「全員自己紹介は済んだかな。そしたら、これからのことを説明していくね」 「「「はい」」」 一斉に返事をすれば、桜崎さんはニコニコと笑った。 「まず、君たちには先輩グループが三つある。まあ、二つは解散してるから実質一つだけど『Prolog』ってグループにお世話になるだろうから覚えておいてね。もしかして知ってるかな?」 「知ってます!」 「はい」 「……はい」 相川がバッと手を挙げ、葉山も頷く。 俺も小さく返事をした。 知ってるも何も、昔からお世話になっている。 この二人だって有名だから知ってるだろう。 実際に会った時の反応が楽しみだ。 「そうかい。じゃあ、話は早いかな。鈴華さん、将乃くんと達也くんに通してくれるかな?」 「もう通してあります。今から行けますよ」 ドアが開いて鈴華さんが顔を覗かせる。 流石、仕事が早い。 琉華さんたちが「こっちの方が鈴華は向いてる」と言うだけある。 「じゃあ、とりあえず頼んでいいかな?」 「了解しました。初めまして、社長補佐の月待鈴華です。社長補佐と言っても雑用からマネージャーまで何でもやるので名前だけですが」 「よろしくお願いします」 お辞儀をする相川と葉山と一緒に俺もお辞儀をする。 俺たちは鈴華さんと一緒に社長室を出た。 「じゃあ、倉庫に行きましょうか」 「え、倉庫?」 驚く葉山に俺は苦笑する。 最初は誰だって驚くよな。 天下のアイドルグループPrologが事務所の倉庫に居座ってるなんて。 気持ちはわかるけど。 新鮮な反応をする葉山と相川に楽しそうな鈴華さんと俺たちは倉庫へ向かった。 将乃さんと達也さんに会った時、この二人はどんな反応をするのだろうか。 そんなことを考えると、自然に笑みがこぼれた。
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