第一章 one-step

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第七話 それは不幸にも〈晶〉 「お疲れ様でしたーっ」 ライブの前日。 バラエティ番組の撮影を終えた俺は元気に挨拶をして楽屋に戻った。 楽屋のドアを閉めれば誰もいない。 俺はその場にうずくまった。 「痛い……」 率直に言おう。 腹が痛い。 最近腹が痛く、どうも食欲がない。 「はぁーっ、ライブん時には治ってりゃいいけど」 リュックの中から腹痛薬を取り出しながら俺はため息をつく。 流石に腹が痛いから休みますなんて言えない。 トントン ドアをノックする音に「はーい」と返事をする。 「晶、悪いんだけど時間ある?」 「大丈夫です」 楽屋に顔を覗かせたのは琉華さんだった。 琉華さんはさっきまで俺が撮影していた番組で司会をしている。 ダークブルーの髪に中性的な美青年にしか見えないが鈴華さんの叔父らしい。 いや、いくつですか? 俺には鈴華さんと大して年が変わらないようにしか見えないんだけど。 ここの家系は若いうえに美しい顔立ちの人が生まれるのだろうか。 「ごめんね。番組のなかでーー晶?」 突然だった。 今までにない痛みが襲ってくる。 「いっ、」 「晶、大丈夫!?」 琉華さんがうずくまる俺の隣にしゃがむ。 痛い痛い痛い。 俺は病院に行くことになった。 ーー 病院で診てもらった結果、盲腸だった。 点滴をうってもらって明日のライブは乗り切ると決意した俺は琉華さんに明日のライブが終わったらすぐに病院に行くことを条件に周りには言わないでもらうという約束をした。 「本当に大丈夫?」 「明日一日ならどうにかなると思います」 ペットボトルを差し出してくれる琉華さんにお礼を言って受け取る。 公園のベンチに腰をかけ、俺はため息をついた。 空はオレンジ色と紫色のグラデーションになっている。 「あんまり無理しないでね。それで心までやっちゃう人、結構いるから。まだ高校生でしょ?」 「高二です。湊斗と静香に、メンバーに迷惑かけられないんで。協力してくれてる人たちにもファンの人たちにも申し訳ないですし」 俺の言葉に琉華さんは顔を微かに歪める。 「そう言って壊れた人が前にいたよ」 「そうなんですか?」 琉華さんは静かに頷く。 俺はその話を黙ってきいた。 「無理して頑張って、結果的にね。今は元気にしてるけどあの時の顔は二度と見たくない。同じような人はもう見たくないんだ」 なぜだかその言葉には重みがあった。 悲哀な感情が混ざったような声色だ。 「晶。明日は成功させてほしいけど、自分の体も大切にね。僕も晶のその気持ちが痛いほどわかるから止めない。でも、」 「琉華さん、ありがとうございます」 俺は正面から琉華さんを見た。 「俺、明日はやりきります。でも、倒れたりするようなヘマはしませんから!」 「いや、それが普通なんだけどね?」 その言葉に俺は思わず笑ってしまった。
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