第一章 one-step

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第八話 力を合わせて1〈晶〉 「はああああああふうううううう」 大きく息を吸い、大きく息を吐く。 ライブ当日。 俺は衣装を着て楽屋にいた。 途中で痛みでも襲ってこない限り、平気なはずだ。 平常心平常心。 心の中でそう唱え、かっと目を見開く。 よしっ、いこう! 楽屋を出ると、そこには湊斗と静香がいた。 「来た、晶」 「晶くん」 「悪ぃ、待たせた」 二人に駆け寄り、誤魔化すようにバンッと背中を叩く。 大丈夫だ、痛くない痛くない。 「おしっ、やるぞ!」 「うん!」 「ああ」 俺の言葉に静香も湊斗も頷く。 誤魔化しついでに気づいた。 最初の頃は自信なさげに返事をしていた静香はなんだか明るくなっている気がする。 湊斗も前はもっと無愛想な感じだったけど、角がとれてきているのか返答が柔らかくなっている。 二人とも、変わったのかもしれない。 「なんか変わったな、二人とも」 「「そんなに変わったか(な)?」」 ハモる二人にぶっと吹き出す。 次の瞬間、腹に痛みがはしり唇を噛み締めて我慢する。 落ち着け、我慢我慢。 「自分じゃわからなくても他人から見たらわかることもあるんじゃないかしら?」 鈴華さんがやってきて、俺のほうをチラリと見た。 目が「大丈夫?」と言っている。 「鈴華さん」 「静香ちゃんは、前に望月さんと二人で話した時以降ちょっと自信ができたんじゃない?」 望月、望月麗は今静香と共演してるはずだ。 よく分からないが、静香は小さく頷いている。 「自分の意見を他人に言うのって、すごい難しいんだ。私は上手く意見できないし、あの時だって感情に任せて言っちゃったけど。それでも、私だって言われてばかりじゃないって自信になったんだと思う」 「望月麗相手によくやった」 あの湊斗が人を褒めている。 珍しい。 俺はよく分からないが、望月麗に意見するのはすごいらしい。 「湊斗もだいぶ柔らかくなったわよ?」 「そう、ですか。ずっとアイドルにいい印象がなかったんです。でも、実際自分がやってみると悪い印象だけじゃないんだなって思えるようになりました」 考え込む湊斗に俺は「お前アイドル嫌いなのにやってたのか!?」と思わず言ってしまう。 湊斗にギロリと睨まれる。 「悪いか?」 「人がどんな印象持ってるかなんてわからないものね」 鈴華さんはクスクス笑いながらフォローしてくれる。 「晶は周りをだいぶ見れるようになったわ。前は気にせず猪突猛進って感じだったけれど、今は気を配って行動できるようになってる」 「マジですか!?あざーっす」 「お前、もっと考えろよ」 湊斗に頭を叩かれ、隣で静香が吹き出している。 解せぬ。 「そろそろお時間です」 「「「はい!」」」 スタッフに声をかけれて行こうとすると、鈴華さんが耳元で小さくつぶやく。 「お腹大丈夫?痛くない?」 琉華さん裏切ったな。 まあ、鈴華さんに止めるなとも言ってくれたんだろうけど。 それに、俺が絶対にすぐ病院行くとも限らないから手をまわしたんだろう。 「琉華さんからきいたんですか?」 「まあね。父さん、心配してたわよ」 ……父さん? なんで父さん? 首を傾げれば、鈴華さんは苦笑する。 「私、琉華さんのところで育ったの。だから、父さんって呼んでるんだけど、顔が顔だから兄妹にしか見えないみたいで」 「なるほど。……ところで、もう既に振る舞うので疲れました」 腹痛い……。 盲腸ってひどくなると手術しなきゃいけないんだっけ? 手術後が激痛って聞いたことがある。 「ライブ、無理のない範囲で」 鈴華さんは軽く俺の背中を押す。 「はい」 俺は笑う。 「晶、もう出るぞ!」 「わかってるって」 「走ると危ないよ!?」 満天の星のようなペンライトの光の前に一歩踏み出す。 今までで一番の歓声。 今ここで俺はやりきる。 そう決めたから。
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