第一章 one-step

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第一章 one-step

第一話 私の性格との違い〈静香〉 私は、かっこよくてクールな学校のアイドル、私はかっこよくてクールな学校のアイドル……! 心の中でそんなことを呟きながら緊張で震える手を隠す。 そして、目を吊り上げて意地悪そうな表情をつくった。 今日も私は、 「アンタみたいなのが何でっ」 「ひっ」 その世界に入り込み、 「はい、カットー」 キャラを演じている。 ーー テレビや雑誌で大人っぱく微笑む濃い茶髪の女子。 その女子のポスターを見て顔が引つる。 「葉山静香、超かっこかわいい!」 「わかる〜!」 「女子の憧れだよね」 廊下を歩いていると、エキストラの子たちだろうか。 中学生くらいの可愛らしい女の子たちとすれ違った。 かっこかわいい、女子の憧れ。 そんなワードに私は申し訳なくなりながら楽屋に入り、バンッと扉を閉めた。 そのまま椅子に座り込む。 「緊張で死んじゃうかと思った……」 楽屋でプルプルと震えながら台本を開く。 自分しかいない楽屋で緊張を落ち着かせるのはいつものことだ。 でもだいたい落ち着かない。 「うぅ、なんで私この仕事やってるんだろ」 ーー私、葉山静香はデビューして一年のアイドルで芸能科のある高校に通っている。 でも、アイドルになったのはお母さんが内気な私の性格をなおそうとして芸能事務所に入れたからであんまり性に合ってない。 何より、顔のせいで恋愛ドラマのライバル役とかが多くてどうしたらいいか余計わからなくなっている。 表向きの、クールで大人っぱい葉山静香。 本当の、というか裏の、内気でプレッシャーに弱い葉山静香。 どうしよう、お腹痛い。 やっぱり、この仕事向いてないかも。 俯いていると、扉がノックされた。 「静香ちゃん、入るわよ……って、大丈夫?」 「鈴華さん。大丈夫じゃないですよ……」 入ってきたのは臨時マネージャーの月待鈴華さんだった。 私の所属する芸能事務所で働いているのだが、ある時は所属芸能人のマネージャーやプロデュースをし、またある時は雑用をしているという謎多き人だ。 二十代前半くらいで長い黒髪の芸能人顔負けな美女。私たちの面倒を見てくれたのもこの人である。 「あらら、役のことかしら?顔はライバル役でも性格はヒロインなんだけどねぇ」 苦笑しながら鈴華さんは近くにある椅子に腰をかけた。 毎回思うが、おそらく私よりも鈴華さんの方が圧倒的に美人だ。 「特にバラエティー番組でもそういう感じをださないといけないのが結構苦痛で……」 「なんだかどこかで聞いた事あるような話だわ……」 鈴華さんはなにか思うところがあるのかどこか遠い目をしてから私の方を見て真剣な顔になった。 「そろそろライブもあるし、そっちの練習もしなくちゃね」 「ああ、そうでしたね。晶くんと湊斗くんには?」 「あの二人は静香ちゃんより肝座ってるし晶に至ってはご機嫌だったわよ」 やっぱりそうですよねー。 予想していた通りの言葉にがくりと項垂れる。 私のグループは、one-stepといって男二人、女一人で構成されている。 私の他のメンバーは、ダンスが得意で負けず嫌いな相川晶くんとクールで歌唱力抜群の音城湊斗くん。 グループで活動する時も多いけど最近は個々で活動してるような気もする。 「これにプラスして練習は大変だと思うけど、私もできるだけサポートするし頑張って」 「はい」 私は鈴華さんの言葉に返事をしてから唇を噛みしめた。 今はとりあえず、この仕事を頑張らなくてはいけない。 あの二人の足を引っ張るようなことはできないから。 「静香ちゃん、そろそろ」 「は、はい!」 パチンッと頬を叩いて立ち上がる。 今日も頑張らなくては!
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