作品No.1 グリム・ウィッチの肖像

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 時は夕方。屋敷が燃されて焼死体にされちまった約二時間。トワとグリムは旅に出ると決めたため、屋敷内に何か使える物は残っていないか確認していた。死体漁りである。 「すっからかんだぁ」 「逃げるときに金目のものは全て持ち出したんでしょう。全くがめつい事です」  屋敷には宝石一つとして残っていなかった。かろうじて物があったのはトワが籠城(ろうじょう)していた物置にあったよく分からない魔導具(ガラクタ)だけ。しかも煤まみれであった。 「トワちゃんトワちゃん、あそこの棚の下の宝箱。あれめっちゃ気になる」  開けたいからあそこまで連れてってと腕をぱたぱた動かすグリムにはいはい、と言うことを聞いてやる。動作がいちいち幼い。トワはてっきり自分より年が上だと思っていたが、予想と違ったかと首を捻った。  ちなみに彼が宝箱に目をつけた理由は宝箱には夢とロマンが詰まっているという幼稚な理由からだったので、精神年齢がトワより下という意味ではあながち間違いではない。 「オープンッセサミ」 「なんです? それ」 「ドアとか蓋を開ける時の呪文?」 「なんで疑問形なんですか」  かぱりと軽い音を立てて開いた煤だらけの宝箱。中にはまるで注がれた水のように箱を満たすたっぷりの布と、古い懐中時計が一つ入っていた。 「あ、この布子供用の魔法のベッドキャノピーだ!」 「綺麗に残ってますね。何故こんなものがここに……」 「これはねぇ、拡張魔法が使われてて、中は広いテントみたいになってるんだよ。昔は子供に人気だったんだけど作成時のコストが高くて生産中止になったやつ」  トワはベッドキャノピーを手に取り、広げてみる。紺色の布地にキラキラした金の刺繍が細やかにされていた。 「へえ、綺麗な色ですね」 「素材もかけてある魔法もいいもんだからね。掘り出し物ですよこれは」  グリムはホクホクとした顔で額縁の向こうにベッドキャノピーを取り込んでいく。どうやら持っていくようだ。 「売るんですか?」 「売ったらいい値で売れるけど、色々使えるから持ってくよ。それよりこれ、首からずっとかけてて欲しーな」  カチャリと音を立てて差し出されたそれを反射で受け取る。宝箱箱に一緒に入っていた懐中時計だ。蓋には細やかな模様が彫られている。  本来、懐中時計はリューズを引っ張ると秒針を動かせる様になっているが、引っ張ってみても動かなかった。耳に当ててみると秒針の音は聞こえない。 「あの、この時計動いてませんけど」 「それは時計じゃなくて魔力を貯めたり測ったりする魔導具だよ。なか見てみ?」  トワは言われるまま蓋を開く。時計で言うとこの文字盤の部分を見てみると、そこには円が二つ収まっていて、片方は真っ黒、もう片方にはメモリと、中央に針がついていた。 「左の黒い方は魔力が貯まると満月になって、右の方はその場所の魔力濃度を測れるメモリになってるよ」 「なるほど。グリムさんに近づけると針が右に動くのはグリムさんの近くの魔力濃度が濃いからですか」 「そそ。今後重要になってくるアイテムだから、大事にね」 「? はい。わかりました」  トワは何だかよく分からないが、これも旅に必要なものらしいと察したので、素直に指示に従う事にする。トワは空気を読むのが抜群に上手いので、野暮な事は言わないのだ。 「さて、もう目ぼしい物もないし外に出よ」 「あ、はい」  グリムを抱え、見慣れすぎてしまった倉庫を後にする。彼女はもう、この場所へは二度と戻らないし、二度と振り返ることもない。この場所へ来る理由はもう、自身の手の中にあるのだから。
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