15人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
全ては自分の独りよがりだ。
やっと掴んだこの手をもう絶対に話すものか。
律はチカの腕を引くと思いっきり抱き締めた。
「俺も好きだよ、チカが好きだ」
親父がそうだったように、自分もチカを悲しませる日が来ないとは限らない。でも、母親が泣きながら言った「幸せだった」という言葉こそが両親の幸せの形だったのだ。
今、チカを手放せば幸せの形そのものが粉々に崩れてしまうだろう。みんなそれぞれ、幸せの形は違うのだ。
小さく震える肩を抱き、その前髪に顔を埋めた。
ふいに、「お嫁さんにしてやる」と照れながら言った遠い日の幼い自分が甦る。そうだった、もうずっと昔から自分にはチカしかいないのだ。
もう間違えない。震える肩を抱く腕に力が入る。
「なぁチカ、今からユリんとこにラーメン食いに行かねぇ?」
「なんで今ラーメンなわけ?」
泣き腫らした真っ赤な目が不満げに律を捉える。
「なんでもだよ」
再び真っ赤な瞳ごと抱き寄せる。
何度だって抱きしめる。
律とチカの幸せの形はここにある。今この時を大切に育てていこう。
かつて両親がそうであったように。
最初のコメントを投稿しよう!