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「わぁー!着いたー!」
私が11歳の頃のことだ。
この日、友達のユリちゃんのお兄さんが通っている農業高校で文化祭があった。
私はユリちゃんのお誘いで、ユリちゃんのお母さんとユリちゃんと一緒に文化祭に遊びに来ていた。
燻製食品やチーズ、新鮮な卵、生け花や手作りブーケなど、農業高校ならではのお店がたくさんあり、まるで夏のお祭りに来ているような気分に胸がわくわくした。
「お母さん、ちょっとお兄ちゃんとこ行ってくるから、二人で好きに回ってていいよ。3時には校門にいるからね」
「分かった!ミキちゃん、行こ!」
「うん!」
私はユリちゃんと手をつないで、いろんな教室を回った。
「ねぇ、あそこ!」
ユリちゃんが指をさした方に“ヒヨコいます”と書かれた看板があった。
「ヒヨコがいるの?」
「ニワトリがいるから、ヒヨコもいるんじゃない?行ってみようよ!」
看板のところに駆け寄ると、箱の中にヒヨコがたくさん入っていた。
「「可愛いー!」」
「いらっしゃい。触ってみる?」
「うん!」
「え、私触ったことない……」
おじさんがユリちゃんの手の上にヒヨコを乗せる。
「ほら、大丈夫だよ。こうやって、優しく持ってあげるんだよ」
「ユリちゃん、すごい」
「おじいちゃんがニワトリをたくさん飼ってるから、たまにヒヨコを抱っこさせてもらうんだ」
「そうなんだ」
「そっちの子も乗っけてみる?」
「え、私は、やったことないから」
「こう両手を広げて、水道のお水を掌にためるみたいにしてごらん」
おじさんがやってみせるのを真似すると、その上にそっとヒヨコが乗せられた。
初めての感覚に落としてしまいそうになる。
手のなかのヒヨコが、落ちまいと暴れる。
「ど、どうしよう」
「力を入れないで、優しく包んであげて。そしたら、暴れないから」
おじさんに言われたようにゆっくりとヒヨコを包むと、ヒヨコは大人しくなった。
「わ、すごい……」
ふわふわしてて、あったかい。
目を閉じながらじっとしているヒヨコを見て、私も笑顔になる。
「可愛い」
「良かったら、一匹持って帰るかい?」
「え!?」
「私欲しい!」
ユリちゃんは迷いもなくそう答えると、おじさんは虫かごのような容器に新聞を敷き、その中にヒヨコを入れ蓋をした。
「わあ、ありがとう!ミキちゃんももらいなよ!一緒に育てよう?」
「でも、お母さんにペットはダメって言われてるし……」
「こんなに可愛いし、小さいんだよ?犬や猫じゃないから、きっと大丈夫だよ!」
犬や猫じゃないから大丈夫。
それは、11歳の私の迷いを消すには、十分な一言だった。
そうして、私は手の中のヒヨコをもらって帰ることにした。
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